・・・今日の百画会は当時の書画会の変形であるが、展覧会がなかった時代には書画会以外に書家や画家が自ら世に紹介する道がなかったから、今日の百画会が無名の小画家の生活手段であると反して、当時の書画会は画を売るよりは名を売るを目的としてしばしば高名な書・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・そして、表現されたものは芸術本来の姿ではなくして、畢竟自己の趣味化された技巧の芸術となって、第一義の精神からは、変形された玩賞的芸術に他ならないのだ。 詩人や、芸術家が、真に、真理の愛求者である、美の讃美者であるなら、そうあることによっ・・・ 小川未明 「正に芸術の試煉期」
・・・口寄せ、梓神子は古い我邦の神おろしの術が仏教の輪廻説と混じて変形したものらしい。これは明治まで存し、今でも辺鄙には密に存するかも知れぬが、営業的なものである。但しこれには「げほう」が連絡している。忍術というのは明治になっては魔法妖術という意・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・この意識の消しがたいがために、義務道徳、理想道徳の神聖の上にも、知識はその皮肉な疑いを加えるに躊躇しない、いわく、結局は自己の生を愛する心の変形でないかと。 かようにして、私の知識は普通道徳を一の諦めとして成就させる。けれども同時にその・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・ただ少しばかり現実の可能性を延長した環境条件の中に、少しばかり人間の性情のある部分を変形し、あるいは誇張し、あるいは剪除して作った人造人間を投入して、そうして何事が起こるかを見ようとするのである。ジュリアンの「ほんとうの話」の大法螺でも、夢・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・こうして雷鳴に対する神秘的の恐ろしさがなくなりはしたが、たぶんその恐ろしさの変形したものと思われる好奇心と興味とはかえって増すばかりであった。「恐いもの見たし」という古い諺は、私の場合には普通の解釈よりももう少し込み入った意味をもって適用さ・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・もっとも文献の破片は一度すっかり細かにすりつぶされなければならないのであるが、すりつぶされても結局素材としてはもとのものの変形である。 この素材の団塊からすぐれた学者が彼の体系をひねり上げる際にはやはり名工が陶器を作ると同様なものがある・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・青い芋虫と真紅の肉片、家鴨と眇目の老人では心像の変形が少しひど過ぎるが、しかしこの偶然な一と朝の経験から推して考えてみるとフロイドの「夢判断」の学説も、そのことごとくが全くの故事付けではないかもしれないという気がして来るのである。 ・・・ 寺田寅彦 「KからQまで」
・・・ 平板に円孔を穿ったものの伸長変形に関する理論と実験の結果を比べたものが学位論文となっている。今日でこそ珍しくないであろうが、当時ではかなりオリジナルな面白い試みであったと思われる。船舶工学方面の研究では、波浪による船のヨーイングに関す・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・その結果として、空中分解の第一歩がどこの折損から始まり、それからどういう順序で破壊が進行し、同時に機体が空中でどんな形に変形しつつ、どんなふうに旋転しつつ墜落して行ったかということのだいたいの推測がつくようになった。しかしそれでは肝心の事故・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
出典:青空文庫