・・・読者の水準にかこつけて、作家・評論家たちが自己放棄を告白した時から、その人々にとって文学の作品は制作から次第に実務に変質して来たのだと思う。 島木、阿部という作家たちの読まれかたも、初めの頃は何かを人生的な欲求として求めている読者の・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・こんにちでは、八紘一宇という言葉をひきあいとして平和への人民の意志をけなすそのことが、一九五〇年代の日本の変質した八紘一宇の姿である。 わたしたち婦人のすべてのよい意志、愛らしい希望、聰明な奮闘、愛のいそしみは、一つの原爆のもとに、とび・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・日本へ渡ったロマンティシズムの文芸思潮が、いかなる形で過去の日本文学の遺産ととけ合い、変質したかということの一つの実例として藤村の詩は見直される意味がある。 藤村が、近年次第に自然について教訓的にものを云いはじめていることは、私共の注意・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・ 粉の白粉は変質したりしないでしょうか、その点も自信ございません。万一パサパサでしたら悪いと気がかりですが、あけては僅の興も失われてしまいますし、こうしてみるとまるで押し花をお送り申すようですね。心ゆるせというばかり。 もうすこし涼・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・ 断種協会は、この社会の不幸である悪質の病気、アルコール中毒等の遺伝から子孫を防衛するために、そういう変質者、病人の断種を人道上の常識としようとする科学的立場によって、組織された会である。 産児制限を、不道徳であると婦人科の女医師で・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・従って有機的な動き方を機械的な動き方に変質せしめたものと見ることができる。この表現の仕方は明白に自然的な生の否定の上に立っている。そうしてそれが一切の動作の最も基礎的なものなのである。が、このように自然的な動きを殺すことが、かえって人間の自・・・ 和辻哲郎 「能面の様式」
出典:青空文庫