・・・丁度大学病院の外来患者の診察札を争うような騒ぎであったそうだ。 淡島屋の軽焼の袋の裏には次の報条が摺込んであった。余り名文ではないが、淡島軽焼の売れた所以がほぼ解るから、当時の広告文の見本かたがた全文を掲げる。私店けし入軽焼の義・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・津浪の如くに押寄せる外来思想は如何なる高い防波堤をも越して日一日も休みなく古い日本の因襲の寸を削り尺を崩して新らしい文明を作りつつある。この世界化は世界の進歩の当然の道程であって、民族の廃頽でもなければ国家の危険でもないのである。 イツ・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・東京にあるものは、根柢の浅い外来の文化と、たかだか三百年来の江戸趣味の残滓に過ぎない。大体われ/\の文学が軽佻で薄っぺらなのは一に東京を中心とし、東京以外に文壇なしと云う先入主から、あらゆる文学青年が東京に於ける一流の作家や文学雑誌の模倣を・・・ 織田作之助 「東京文壇に与う」
・・・映画や小説の芸術に酔うて盗賊や放火をする少年もあれば、外来哲学思想に酩酊して世を騒がせ生命を捨てるものも少なくない。宗教類似の信仰に夢中になって家族を泣かせるおやじもあれば、あるいは干戈を動かして悔いない王者もあったようである。 芸術で・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・ 一方において記紀万葉以来の詩に現われた民族的国民的に固有な人世観世界観の変遷を追跡して行くと、無垢な原始的な祖先日本人の思想が外来の宗教や哲学の影響を受けて漸々に変わって行く様子がうかがわれるのであるが、この方面から見ても蕉門俳諧の完・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・無常迅速、流転してやまざる環境に支配された人生の不定感は一方では外来の仏教思想に豊かな沃土を供給し、また一方では俳諧のさびしおりを発育させたのであろう。 私のこのはなはだ不完全に概括的な、不透明に命題的な世迷い言を追跡する代わりに、読者・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ 外来ヨークシャイヤでも又黒いバアクシャイヤでも豚は決して自分が魯鈍だとか、怠惰だとかは考えない。最も想像に困難なのは、豚が自分の平らなせなかを、棒でどしゃっとやられたとき何と感ずるかということだ。さあ、日本語だろうか伊太利亜語だろうか・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・日本というものの独自性の或る面、外来語でも何でもいつしか自国語にしてしまって、便利なように訛りさえして、日常の便利につかうところに、寧ろ示されてさえいると思えるが如何だろう。 文章のわかりやすさ、無制限に数の多い漢字を整理し、複雑な仮名・・・ 宮本百合子 「今日の文章」
・・・本気で修業する僧と、外来の者を案内したり何かする事務員とは別々な方が自然だ。京都では、この点、もっと俗悪に病的になり下っている。悲しいが憎めない奈良の若者の稚気ある口真似と比較にならない、憎々しさ、粗暴さが、見物人対手の寺僧にある。彼等は、・・・ 宮本百合子 「宝に食われる」
・・・ 日本の芸術家が、いつしか外国人が目して日本的と称する範囲の中に一九三〇年代の複雑な日本を単純化して、外来客に見せる追随主義は、例えば、アメリカの戯曲家エルマー・ライスを山本有三氏邸に招待した饗応ぶりにも現れていたと思う。そこではすべて・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
出典:青空文庫