日本の民主化と云うことは実に無限の意味と展望を持っている。 特に一つ社会の枠内で、これまで、より負担の多い、より忍従の生活を強いられて来た勤労大衆、婦人、青少年の生活は、社会が、封建的な桎梏から自由になって民主化すると・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・この載せてある物はいつも多い。堆く積んである。それは緩急によって畳ねて、比較的急ぐものを上にして置くのである。 木村は座布団の側にある日出新聞を取り上げて、空虚にしてある机の上に広げて、七面の処を開ける。文芸欄のある処である。 朝日・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・そのほかはすべて雨ざらしで鳥や獣に食われるのだろう、手や足がちぎれていたり、また記標に取られたか、首さえもないのが多い。本当にこれらの人々にもなつかしい親もあろう、可愛らしい妻子もあろう、親しい交わりの友もあろう、身を任せた主君もあろう、そ・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・親としての作家と、作家としての作家と、区別はないようであるけれども、駄作を承認する襟度に一層の自信を持つようになったのは、親としての作家が混合して来た結果である場合によることが多いと思われる。人間が行動するとき、子のあるものと子のないものと・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・これから内へ帰りましても、わたくしはやっぱり一人でいることが多いのでございます。」 フィンクは「お内はどこですか」と云おうと思ったが言う暇がなかった。女が構わずに語り続けるからである。そしてその女の声は次第に柔かに次第に夢のようになって・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・これから起こる事も恐らく予期をはずれた事が多いでしょう。私はいろいろな事を考えたあとでいつも「明日の事を思い煩うな」という聖語を思い出し、すべてを委せてしまう気になります。そうしてどんな事が起ころうとも勇ましく堪えようと決心します。 し・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫