・・・この複雑多岐で社会の事情万端数ヵ月のうちに大きく推移してゆくような時代に生き合わせて、受け身に只管失敗のないよう、間違いないようとねがいつつ女の新しい一歩を歩み出そうとしたって、自身の未熟さを思えばそれは手も足もどこに向って伸してよいか分ら・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・ 窪川稲子の業績や将来の発展というものは、それ故すべての積極的な、忍耐づよい、天分あるプロレタリア作家の生涯に対して云い得るように、全く階級の力の多岐多難な発展の過程とともに語られて初めて本質に迫り得るものであると思う。歴史の新たな担い・・・ 宮本百合子 「窪川稲子のこと」
・・・ 人類の発展の足どりは、実に多岐多難である。名状し難い献身、堅忍、労作、巨大な客観的な見とおしとそれを支えるに足る人間情熱の総量の上に、徐々に推しすすめられて来ている。決して反復されることない個人の全生涯の運命と歴史の運命とは、ここに於・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・らさせ、真面目な再吟味の根気を失わせられたことは、それらの作家たちが過去において率直に傾け示した自身の努力、人間的善意の価値に自信を失わせる結果となり、従って、プロレタリア文学運動の高揚と退潮とに至る多岐な数年間の経験から、将来の作家的成長・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 日本が世界歴史のこの多岐な頁をしのいでゆく永年に亙っての実力のために、日本人はこれまでの誇りとして自認している勇気を更に多様な沈着な粘りつよく周密なものとしての面に発揮してゆかなければならないでしょうし、社会事情の複雑さについて却って・・・ 宮本百合子 「歳々是好年」
・・・もし、現実の多岐な発現が、過去の文学的教養の枠を溢れているので、そんなものは今日の作家にとって無意味であるというならば、では、それに代る他の教養、真に現実を把握し、現実の変転の真の歴史的契機にふれ得るだけの科学的な教養、政治的な教養を身につ・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・新しい社会の建設過程は多岐、困難であるから、ジイドの観察が嘘ばかりだとは思えない。特に、民衆の個性、自発性の涵養の問題は常にソヴェトにおける文化問題の究明に際して最前面に出されているのであるから。彼は、それらの現象の本質の把握において誤った・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・千葉先生の歴史は、歴史というものが複雑多岐なる人間交渉をめぐって展開されることを私たちに教え、一つの事件の結果は、結果そのものがもう次の出来ごとの原因となってゆくような、物事のいきさつを描き出して示した。そのことは、私に、いろいろな身のまわ・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・ ところで、これらのプロレタリア新進作家や旧インテリゲンチア作家たちは、それぞれ多種多様な発展の段階にあって、プロレタリアートの世界観とその複雑多岐な実践に結びつけられ建設に寄与するものであって、社会主義建設の見とおしと方向において一致・・・ 宮本百合子 「社会主義リアリズムの問題について」
・・・続いてその三年目は、逝けるレフ・トルストイが目醒めないながらも熾烈に働く人間精神の欲求によってさぐり求めていた万民の幸福への、至難多岐な第一歩がロシア全土に於て踏み出された年である。 父を理解しない当時の国家の権力までをつかって、財産を・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
出典:青空文庫