・・・ さっきっから渋い顔をして何事か案じて居た栄蔵は、「私は、今夜の夜行でどうしても立って行くさかい、お前も一緒にお行き。 こんなところに居ては気づかいで重るばかりやないか。 な、そうしよう。 立ちあがって、グングン・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ ソヴェトの三等夜行列車では、一組一ルーブル前後で敷布団、毛布、枕が借りられるのだ。しかし、若い女は借りない。二人の日本女は革紐を解いて毛布と布団をとり出した。色の黒い方の日本女は毛布と書類入鞄とを先へ投げあげといてから、傍の柱にうちつ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
一 一九二八年九月二十八日、私ともう一人の連れとは、チフリスから夜行でバクーへやって来た。 有名な定期市が終った朝、ニージュニ・ノヴゴロドからイリイッチ号という小ざっぱりした周遊船にのって、秋・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・ 八月十八日 那須に十一時の夜行で立つ。車中、五六人の東山行の団隊、丸い六十近いおどけ男、しきりに仲間にいたずらをする。紙切を結びつけたりして。那須登山 三日目四五日目、Aの退屈、夏中出来なかった仕事のエキスキュース・・・ 宮本百合子 「「伸子」創作メモ(二)」
出典:青空文庫