・・・あまりにも複雑な機巧に満ちたこの大曲に盛りつぶされ疲らされたすぐあとであったので、この単純なしかし新鮮なフィルムの音楽がいっそうおもしろく聞かれたのかもしれない。そうしてその翌晩はまた満州から放送のラジオで奉天の女学生の唱歌というのを聞いた・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・という大曲の一部だという「入破」、次が「胡飲酒」、三番目が朗詠の一つだという「新豊」、第四が漢の高祖の作だという「武徳楽」であった。 始めての私にはこれらの曲や旋律の和声がみんなほとんど同じもののように聞えた。物に滲み入るような簫の音、・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・あの時に江戸川の大曲の花屋へ寄って求めたのがやはりベコニアであった。紙で包んだ花鉢をだいじにぶら下げて車にも乗らず早稲田まで持って行った。あのころからもうだいぶ悪くなっていた自分の胃はその日は特に固く突っ張るようで苦しかった。あとから考えて・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
・・・それでもピアノの大曲となればやはりコンツェルトのように管弦が添うのが常である。合奏として見た連句で、三人ないし四五人までの共同制作になるものに比較さるべきものとしては各種のいわゆる「室内楽」がある。すなわち三重奏、四重奏、五重奏と称するのが・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・その途中で大曲で一泊して六郷を通り過ぎた時に、道の左傍に平和街道へ出る近道が出来たという事が棒杭に書てあった。近道が出来たのならば横手へ廻る必要もないから、この近道を行って見ようと思うて、左へ這入て行ったところが、昔からの街道でないのだから・・・ 正岡子規 「くだもの」
出典:青空文庫