・・・地理教室の図書の管理をしていた、オットー・バシンという人も同じ仲間であったがこの人は聴講に身が入って来ると引切りなしに肩から腕を妙に大業に痙攣させるので、隣席に坐るとそれが気になって困った。あんまり勉強し過ぎて神経を痛めているのではないかと・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・お前たちはまるで勝手だねえ、僕たちがちっとばっかしいたずらすることは大業に悪口を云っていいとこはちっとも見ないんだ。それに第一お前のさっきからの数えようがあんまりおかしいや。うう、ううてばかりいたんだろう。おしまいはとうとう風車なんか数えち・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・さをもう取り返しのつかない事でもした様に大業に思った。 裏通りの彼の人の叔父の家へ行けばすぐわかる事だけれ共、人をやるほどの事でもなしと思って、「おととい」出したS子への手紙の返事を待つ気持になる。 飛石の様に、ぽつりぽつりと散って・・・ 宮本百合子 「秋風」
・・・ 友達などと云うものは大業に紹介されたりなんかしたよりも何時と云う事はなしに親しくなった人同志の方が久しく一致して居られるものだと見える。 M子も私も小さい時に一つの学校に居た。 丁度その学校を出ようとする前の年頃から年よりは早・・・ 宮本百合子 「M子」
・・・きっと、金持連の世間から隔った享楽場として、余り大業な騒ぎかたが却って衰退を早めたのでございましょう。今でも腐った軌道や枕木が、灌木や羊歯の茂った阪道に淋しく転って居ります。頂上には、其等の廃跡の外に、一軒不思議な建物があるそうでございます・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・そのなかに、あちらにいたときは物資が欠乏しているということを頻りにきかされていたところ、帰って見たら物資は店頭にあふれていて、これでこそ興亜の大業に進む国の姿であると愉快に思ったという意味が語られていた。私たち一般人の生活の日常では、炭や米・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・ 友達だった娘が行くことにきまったなどと、さも嬉しそうに誇らしげに告げると、二人は妙に後れちゃあ大事だという心持になって、こっそり納屋の蔭や、畑の隅で相談する。 大業に相談するとは云っていても、事柄は簡単なものである。「さだちゃ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・けれ共、大業にするのではなく、副業にしているのだからその利益もしれたものである。 一年の間、春、夏、秋、と三度蚕を飼ってあがる利益と、自分の畑のものを売った利益などで純農民は生計を立てて行かなければならない。 表面上は立派に自由の権・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 大業にし過ぎるということは若い者にあり勝ちの欠点かも知れない。重大事を重大事として扱うのに不思議はないと思うから。しかし引きしめて控え目に、ただ核実のみを絞り出す事は、嘘を書かないための必須な条件であった。製作者自身は真実を書いている・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫