・・・ 在昔、欧羅巴の白人が亜米利加に侵入してその土人を逐い、英人が印度地方大洋諸島に往来して暴行をたくましゅうしたるもその一例なり。今日西洋において仏国盛なり英国富むというといえども、その富のよってきたるところは何処にあるや。竜動に巍々たる・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・ 運命の命ずるままに引きずられて、しかも益々苦痛な、益々暗澹たる生活をさせられる我身を、我と我手で鱠切りにして大洋の滄い浪の中に投げて仕舞いたかった。 始めの間は、家、子供、妻と他人の事ばかり思って居た栄蔵は、終に、自分自身の事ばか・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・海はここの下で入江になって居て、巖壁に穿たれた夥しい生簀の水に、淡い月の光と大洋の濤が暗く響いて来た。 裏手の障子をあけるとそこも直ぐ巖であった。その巖に葛の花が上の崖から垂れて居た。葛の花は終夜、砂地に立つ電燈の光を受けた。〔一九・・・ 宮本百合子 「黒い驢馬と白い山羊」
・・・ 例えば、遠い大洋をへだてたあちこちの島々に、守備としてのこされた一団の兵士たちは、どういう経験をしただろう。食糧事情で恐るべき経験をしている。しかし、ただ、食うものがない辛苦をしのいだだけであったなら、それがどんなに酷かったにしろこれ・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・屋の如き浪を凌いで、大洋を渡ったら、愉快だろう。地極の氷の上に国旗を立てるのも、愉快だろうと思って見る。しかしそれにもやはり分業があって、蒸汽機関の火を焚かせられるかも知れないと思うと、enthousiasme の夢が醒めてしまう。 木・・・ 森鴎外 「あそび」
出典:青空文庫