・・・んな工合のものかと思って、入口へ寄って、場席の手入れや大道具の準備に忙しい中を覗いてみたが、その時はもう絵看板や場代なんかも出ていて、四つの出しもののうち、大切の越後獅子をのぞいたほか、三つとも揃って大物であることが判って、その盛りだくさん・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・それとも知らずその内の人が外へ出ようとすると中庭に大男が大物を抱いて居る画があるので度々驚かされる。今日もまた例の画がかいてあったとその内の人が笑いながら話すのを僕が聞いたのも度々であった。その時の幼い滑稽絵師が今の為山君である。○・・・ 正岡子規 「画」
・・・こういう大物のあとへ何を出したってこっちの気の済むようには行くもんでないんです。」「では楽長さん出て一寸挨拶してください。」「だめだ。おい、ゴーシュ君、何か出て弾いてやってくれ。」「わたしがですか。」ゴーシュは呆気にとられました・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・所謂「大物」だとそれ以上――蔵原惟人でいくらになった? そう思うと、体が熱くなるのであった。 暫くして、私は金網越しに云った。「――だけれども結局、いくら引っぱって見たところではじまらないわけですね。世の中の土台がこのまんまじゃ。二・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫