･･･軸は狩野派が描いたらしい、伏羲文王周公孔子の四大聖人の画像だった。「惟皇たる上帝、宇宙の神聖、この宝香を聞いて、願くは降臨を賜え。――猶予未だ決せず、疑う所は神霊に質す。請う、皇愍を垂れて、速に吉凶を示し給え。」 そんな祭文が終って･･･ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
･･･ 老病死の解決を叫んで王者の尊を弊履のごとくに捨てられた大聖釈尊は、そのとき年三十と聞いたけれど、今の世は老者なお青年を夢みて、老なる問題はどこのすみにも問題になっていない。根底より虚偽な人生、上面ばかりな人世、終焉常暗な人生…… ･･･ 伊藤左千夫 「紅黄録」
･･･事に就くは、如何に趣味深き事であろう、礼儀と興味と相和して乱れないとせば、聖人の教と雖も是には過ぎない、それが一般の風習と聞いては予は其美風に感嘆せざるを得ない、始めて此の如き美風を起せる人は如何なる大聖なりしか、勿論民族の良質に基くもの多･･･ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
･･･女の写真屋を初めるというのも、一人の女に職業を与えるためというよりは、救世の大本願を抱く大聖が辻説法の道場を建てると同じような重大な意味があった。 が、その女は何者である乎、現在何処にいる乎と、切込んで質問すると、「唯の通り一遍の知り合･･･ 内田魯庵 「二葉亭余談」
･･･大浦の祭壇や聖像は生花の束で飾られて居たが、この宏い大聖壇を埋めるに充分な花は得難いと見え、厚紙細工の棕櫚らしいものが、大花瓶に立ててある。この大会堂に信者が溢れて、復活祭でも行われる時は壮観であろう。然し私の好みを云うなら、自分は大浦の、･･･ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
･･･早く大聖威怒王の御手にたよりて祈ろうに……発矢、祈ろうと心をば賺してもなおすかし甲斐もなく、心はいとど荒れに荒れて忍藻のことを思い出すよ」心は人の物でない。母の心は母のもの。それで制することが出来ない。目をねむッて気を落ちつけ、一心に陀羅尼･･･ 山田美妙 「武蔵野」
出典：青空文庫
