・・・そのとき、たったいちどだけ、私はW君を見掛けて、それが二十年後のいまになっても、まるで、ちゃんと天然色写真にとって置いたみたいに、映像がぼやけずに胸に残って在るのである。私は、その顔をハガキに画いてみた。胸の映像のとおりに画くことができたの・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
・・・ 映画に下手な天然色を出そうとする試みなども愚かなことのように思われる。そうして芝居の複製に過ぎないようなトーキーもやはり失敗であるとしか思われない。言うまでもなく独立な芸術としての有声映画の目的は、やはり他にすでにあるものの複製ではな・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・は「天然色映画のようにたっぷりして、刺戟がなくて、たのしめるもの」として数十万部をうりつくしていると語られている。ある種の人々は、日本の現代文学を植民地化される人民の日常生活のふち飾りと化して、現実の生活では見たこともないのびやかな生活の語・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・ パラマウントが日本へ来て撮影して行った日本紹介の天然色映画を、偶然の機会で見ることが出来た。こんなに桜が見事なところが日本にもあったのであろうかと、私はおどろいた。普通の東京住いの市民などは見たことないような桜花爛漫の美を眺めたが・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
出典:青空文庫