人類の祖先たちは、彼らの原始的な生活のもとで、どんなふうに自分たちの発見と智慧とをもちいてきたのだろう。 太古の人類の希望は、幸福に生きたいという単一の強烈な欲求であった。それらの人々は、自分たちに一本の棒の切れはしを・・・ 宮本百合子 「いのちのある智慧」
・・・日本でも太古の社会で既に紡織の仕事をしていた。天照大神の物語は日本の古代社会には女酋長があったという事実を示しているとともに、その氏族の共同社会での女酋長の仕事の一つとして彼女は織りものをしたということが語られている。天照という女酋長が、出・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・それは有名なライン河である。太古の文明はこのライン河の水脈にそって中部ヨーロッパにもたらされた。ライン沿岸地方は、未開なその時代のゲルマン人の間にまず文明をうけ入れ、ついで近代ドイツの発達と、世界の社会運動史の上に大切な役割りを持つ地方とな・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・氷河が太古に地球の半を包んだように、何千万年かの後にはまた地球をひろく被うようになるかもしれない。しかし、そうなれば、人間は南へ移住することができる、とコフマンはいっている。この言葉はわかりやすい簡単な言葉だけれども、これだけの一句にも、や・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ 太古のエジプト人たちは、人間の生命は息と眼の中に宿るものだと考えた。もしそうでないなら、息がとまったとき死という現象が起り、眼の光が失われてつむったとき人間も死ぬということはない、と彼らは考えた。そして、生命という意味の象形文字は、自・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・――和歌や俳句の夥しい駄作で、こうも陳腐化されなかった太古の。―― 今、若葉照りの彼方から聞えて来るその声は、私に、八月頃深い山路で耳にする藪鶯の響を思い出させた。板谷峠の奥に、大きい谿川が流れて居る。飛沫をあげて水の流れ下る巖角に裾を・・・ 宮本百合子 「木蔭の椽」
・・・我等は、教育の概念にあやまたれ社会人の 才に煩わされホメロスの如き 太古の本心を失った。何処までも 繊細に 何処までも 鋭く而も大らかに 生命の光輝を保つことこそ人間は、芸術は甲斐ある 精神の果実だ。・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・だのを書いたような工合に、歴史の中で、子供というものが太古から今日まで、どんな生活をして来たかというその変遷の物語か書いて見たいとは思うけれど、小説風なおはなしは書きたいと感じていない、と話した。 稲子さんは二人の子供たちをもっているし・・・ 宮本百合子 「子供のためには」
・・・それもいつのことであったかはわからない。太古からすでに日本にあったとも言われているが、仏教に伴なって来たということもあり得ぬことではない。そうなると蓮の花は、われわれの祖先の精神生活を象徴するのみならず、広くアジアの文化を象徴することにもな・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
・・・深山に人跡を探れ、太古の民は木の実を食って躍っている。ロビンフッドは熊の皮を着て落ち葉を焚いている、彼らの胸には執着なく善なく悪なし、ただ鈍き情がある。情が動くままに体が動く、花が散ると眠り鳥がさえずると飛び上がる。詩人ジョン・キーツはこの・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫