・・・よごれて、かび臭く、それに奇態に派手な模様のものばかりで、とても、まともな人間の遺品とは思われないしろものばかりである。私は風呂敷包を、ほどきながら、さかんに自嘲した。「デカダンだよ。屑屋に売ってしまっても、いいんだけどもね。」「も・・・ 太宰治 「服装に就いて」
・・・そうして、子供を連れて乗ったおとなもつい子供のような気持になる、といったような奇態な電車である。柱の白樺の皮がはがれた所を同じ皮で繕って、その上に巻いたテープには「白樺の皮をだいじにしてください」と書いてある。なるほど、だれでもちょっとはが・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・どうも奇態な男だ。先達て『日本』新聞に掲げた古瓦の画などは最も得意でまた実際真似は出来ぬ。あの瓦の形を近頃秀真と云う美術学校の人が鋳物にして茶托にこしらえた。そいつが出来損なったのを僕が貰うてあるから見せようとて見せてくれた。十五枚の内よう・・・ 寺田寅彦 「根岸庵を訪う記」
・・・どういうものか蚊帳を見ると奇態に興奮するのであった。ことに内に人がいて自分が外にいる場合にそれが著しかった。背を高くそびやかし耳を伏せて恐ろしい相好をする。そして命がけのような勢いで飛びかかって来る。猫にとってはおそらく不可思議に柔らかくて・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
出典:青空文庫