・・・は、公の一存在としての人民生活、市民生活への奉仕という近代民主主義の要素とはちがったものです。「公僕」という言葉が、民主日本になったからいわれはじめたけれど、その「公」というものが実感の中で「公のものである人民」として感覚されていないことは・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・こんにち、かつての大東亜圏の理論家のあるものは、きわめて悪質な戦争挑発者と転身して、反民主的な権力のために奉仕している。「プロレタリア文学における国際的主題について」は、それらの問題についてある点を語っているが、この評論のなかには、きょ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・小市民層は、労働者階級に奉仕することにしか使命はないとする考え方のあやまりであることも明瞭である。一つの階級が他の階級を自身の奉仕におくという考え方は、労働階級は資本家階級に奉仕すべきものであるという資本主義的な考え方の裏がえしにすぎない。・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・「女王は女王らしく泰然として一家に君臨し、悠然として奉仕されているのこそ身分柄定められた掟でもあり云々」と「繊手に爆弾をとりあげては見たものの」投げる対手はないことになって「時津風枝も鳴らさぬ平和主義」の主観的女権尊崇の栄光を讚していられる・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・人、及び女として自ら覚めた者こそ、始めて、彼女が人類の一員として奉仕すべき自他の関係を発見し、其に処する力を与えられます。先ず女人として深く力強く呼吸した彼女等が、社会の有機的存在の一員として、人格の独立の為に要求し把掴したのが、法律的並び・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・まして国鉄本省にあらわれた下山氏がとりみだしていたという姿は、一日に千余通送られていた人民の哀訴の手紙と、権力に奉仕する官僚としての板ばさみの立場に苦しむ同氏の心の乱れのほかではないだろう。 死の過程がどうであったにしろ、下山氏の死の本・・・ 宮本百合子 「「推理小説」」
・・・ けれども、ここに私共の考えなければならないことは、現在の日本の夫婦間には著しく欠乏している友情が彼等に於ては感情の基礎となっている為に、或る一部の人からは、女性の奉仕が足りないとか、良人が甘いとか云う非難を聞かされることです。 勿・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 某つらつら先考御当家に奉仕候てより以来の事を思うに、父兄ことごとく出格の御引立を蒙りしは言うも更なり、某一身に取りては、長崎において相役横田清兵衛を討ち果たし候時、松向寺殿一命を御救助下され、この再造の大恩ある主君御卒去遊ばされ候に、・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・そうしてその肉感的な陶酔を神への奉仕であると信じている。さらにはなはだしいのは神前にささげる閹人の踊りである。閹人たちは踊りが高潮に達した時に小刀をもって腕や腿を傷つける。そうして血みどろになって猛烈に踊り続ける。それを見まもる者はその血の・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・我々はここに享楽的浮浪人としての画家、道義的価値に無関心な官能の使徒としての画家を見ずして、人類への奉仕・真善美の樹立を人間最高の目的とする人類の使徒としての画家を見る。もとより画家である限り、その奉仕は「美」への奉仕に限られている。しかし・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫