・・・ その年転じて叡山に遊び、ここを中心として南都、高野、天王寺、園城寺等京畿諸山諸寺を巡って、各宗の奥義を研学すること十余年、つぶさに思索と体験とをつんで知恵のふくらみ、充実するのを待って、三十二歳の三月清澄山に帰った。 かくて智恵と・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・故にその芸術を一生の仕事としようとする者は、初めに堅く志を立てて如何なる困難に出会っても撓まず、その奥義を極めるまでは死すとも止めないほどの覚悟をしなくてはならない。一、身体を大切にせねばならない。仕事には非常の根気とエ・・・ 倉田百三 「芸術上の心得」
・・・すなわち食通の奥義である。 いつか新橋のおでんやで、若い男が、海老の鬼がら焼きを、箸で器用に剥いて、おかみに褒められ、てれるどころかいよいよ澄まして、またもや一つ、つるりとむいたが、実にみっともなかった。非常に馬鹿に見えた。手で剥いたっ・・・ 太宰治 「食通」
・・・れず貧賤も鄙陋に陥らず、おのおの其分に応じて楽しみを尽すを以て極意となすが如きものなれば、この聖戦下に於いても最適の趣味ならんかと思量致し、近来いささかこの道に就きて修練仕り申候ところ、卒然としてその奥義を察知するにいたり、このよろこびをわ・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・ ちなみに太郎の仙術の奥義は、懐手して柱か塀によりかかりぼんやり立ったままで、面白くない、面白くない、面白くない、面白くない、面白くないという呪文を何十ぺん何百ぺんとなくくりかえしくりかえし低音でとなえ、ついに無我の境地にはいりこむこと・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・愛という字をつかわずに、人々の心に愛の火を点じてゆく芸術の奥義が、どんなにしてかちとられてゆくか、それは明日に待たれてよいのだと思う。 それにしても、女の芸術家の響き立てる女というものの気配は、何と微妙で面白いだろう。竹内さんの詩の心は・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
出典:青空文庫