・・・裸身の親父がまだボシャボシャすることも知らない小さい息子を抱いて、体を洗ってやってると、妻君が嬉しそうにしゃがんで眺めているのなどもよく見かける。 一寸電車にのって行くと、やっぱりモスクワ河に沿って、「文化と休みの公園」という数万坪の大・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の夏休み」
・・・ その婆さんが話したが、呉服橋ぎわの共同便所の処で三十七人死んだ、その片われの三人が助かった様子、中二人は夫婦で若く、妻君は妊娠中なので、うしろの河に布団をしずめて河に入れて置いたが、水が口まで来てアプアプするので、仕方なく良人も河にと・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・ 一体此処いら界隈が学者町で、相当に落つきのある生活をして居る人が多く、したがって、それ等の人達の娘だとか妻君だとか云う人で暇仕事に音楽などをする人が多いので、東京の音楽の盛な区の中に入って居るとか云う事をきいた事があった。 実際上・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・ それが、裏庭にある小学校長の家で妻君が庭を掃いて居る時にきこえてからと云うもの、もらいものが腐りそうになっても、食べきれないほど野菜があってもやる事はぴったりやめ用事があってもこの婆さんの居る時は必(して声さえかけないほどになった・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・チェホフの手紙をよむと、妻君であるオリガ・クニッペルに向って、実に親切に、おだやかに、俳優の芸術家としての見識について、芸術境地の高めかたについて忠告を与えている。どれをよんでも、名優というものが、すべての芸術を貫く忍耐づよい研究心、真実を・・・ 宮本百合子 「俳優生活について」
・・・いわゆる五・一五事件当時から山岸敬明と妻君のあや子という人の間には、新聞口調でいえば、灼熱のロマンスがひめられていたそうです。このあやさんが賀陽氏のいとこなのだそうです。 だいたい生活能力のあたえられずに生きてきた皇族の今日の生活は、実・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」
・・・――今の男の妻君の妹分に当る女ってのが、私もちょっと知ってるには知ってるんですが、二日ばかり前にいなくなったんだそうです。鏡台の中とかに私の所書があったからって来たんですが、……私はそんなことちっとも知りゃしないんですよ」「ひどく不満そ・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・幸いその子は舅の末弟の息子であり、その妻君が離別された後ひきとられて育てられていたのだということが判明しました。 父は純真な性格の人で、三十歳ではあったがそれ迄道楽もせずにいました。互に諒解が行ったらしいが、明治三十二年の末頃生れて百日・・・ 宮本百合子 「わが母をおもう」
・・・狂言の行中には、いつも少し魯鈍でお人よしな殿と、頓智と狡さと精力に満ちた太郎冠者と、相当やきもちの強い、時には腕力をも揮う殿の妻君とが現われて、短い、簡明な筋の運びのうちに腹からの笑いを誘い出している。 武家貴族の生活が婦人を愉しく又苦・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・このアメリカはワシントンが豚の焼き肉をうまそうに食った時代、リップ・ヴァン・ウィンクルが妻君に牛耳られて山に逃げ込んだ時代のアメリカである。この美しい理想郷を得るは「自覚」の下に立てばやすい事だと狂気のように力ーライルは説く。一生懸命のけん・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫