・・・高阪橋を越す時東を見ると、女学生が大勢立っていると思ったが、それは海老茶色の葦を干してあるのであった。 寺田寅彦 「高知がえり」
・・・「ぱっぱ女学生」と土地でいわれている彼女たちは、小刻みに前のめりにおそろしく早く歩く。どっちかの肩を前におしだすようにして、工場の門からつきとばされたいきおいで、三吉の左右をすりぬけてゆく。汗のにおい、葉煙草のにおい。さまざまな語尾のみじか・・・ 徳永直 「白い道」
・・・洗髪に黄楊の櫛をさした若い職人の女房が松の湯とか小町湯とか書いた銭湯の暖簾を掻分けて出た町の角には、でくでくした女学生の群が地方訛りの嘆賞の声を放って活動写真の広告隊を見送っている。 今になって、誰一人この辺鄙な小石川の高台にもかつては・・・ 永井荷風 「伝通院」
・・・ けれども、電車の中は案外すいていて、黄い軍服をつけた大尉らしい軍人が一人、片隅に小さくなって兵卒が二人、折革包を膝にして請負師風の男が一人、掛取りらしい商人が三人、女学生が二人、それに新宿か四ツ谷の婆芸者らしい女が一人乗っているばかり・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・余は、疾風のごとくに坂の上から転がり出す、すると不思議やな左の方の屋敷の内から拍手して吾が自転行を壮にしたいたずらものがある、妙だなと思う間もなく車はすでに坂の中腹へかかる、今度は大変な物に出逢った、女学生が五十人ばかり行列を整えて向からや・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・世間に所謂女学生徒などが、自から浅学寡聞を忘れて、差出がましく口を開いて人に笑わるゝが如きは、我輩の取らざる所なり。一 既に優美を貴ぶと言えば、遊芸は自から女子社会の専有にして、音楽は勿論、茶の湯、挿花、歌、誹諧、書画等の稽古は、家計の・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・下宿している女学生の夕飯は皆この通りではないか、意気地なし! 三畳から婆さんが、「いかがです御汁、よろしかったらおかえいたしましょう」と声をかけてよこした。陽子は膳の飯を辛うじて流し込んだ。 三 庭へ廻・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・ただ、これらの女学生であり女工である娘たちは、その労働で貰う「相当の賃銀」を「大抵は学資の一部にあてている」のだそうである。校長先生の息子さんの経営で軍需インフレで繁栄している工場へ働いて、貰ったいくばくかの金を再び学校で、その阿母さんに払・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・少女たちは、女学生として、自分たちの勉強のしかたを研究し、研究するための委員を組の中から選んで、先生とざっくばらんに相談し、希望もうちあけてよいのではないでしょうか。そのようにして決めた組内の申し合わせは、自分たちできめたことですから、勝手・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・見えるのは若い女学生のいる部屋である。 欄干に赤い襟裏の附いた著物や葡萄茶の袴が曝してあることがある。赤い袖の肌襦袢がしどけなく投げ掛けてあることもある。この衣類の主が夕方には、はでな湯帷子を著て、縁端で凉んでいる。外から帰って著物を脱・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫