・・・けれどもまだその外にも僕はいろいろの原因から、どうも俳人と云うものは案外世渡りの術に長じた奸物らしい気がしていた。「いやに傲慢な男です」などと云う非難は到底受けそうもない気がしていた。それだけに悪口を云われた蛇笏は悪口を云われない連中よりも・・・ 芥川竜之介 「飯田蛇笏」
・・・ところがオセロの幕下にイヤゴーという奸物がいる。イヤゴーは単純で正直な人々の生活を、自分の奸智でかき乱して、その効果をよろこぶという、たちのわるい生れつきである。従順で、この上なく美しいデスデモーナと、黒いオセロの睦じい性格は彼の奸智を刺激・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・「奸物にも取りえはある。おぬしに表門の采配を振らせるとは、林殿にしてはよく出来た」 数馬は耳をそばだてた。「なにこのたびのお役目は外記が申し上げて仰せつけられたのか」「そうじゃ。外記殿が殿様に言われた。数馬は御先代が出格のお取立・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫