・・・趣味にしても人の好悪にしても祖母はどこまでも現世的であったと思う。 後継ぎになる筈の一彰さんという人は、大兵な男であったが、十六のとき、脚気を患った後の養生に祖母はその息子を一人で熱海の湯治にやった。そこでお酌なんかにとりまかれて、それ・・・ 宮本百合子 「繻珍のズボン」
・・・男は、自分より生活力も弱い婦人を、婦人一般として、その人への自分の好悪にかかわらずていねいに扱うところまで高められなければならないと説いているのである。 男の社会的な習慣をそこまで高めてゆくために、ではどのような婦人の積極性が承認されて・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・わたくしはあまやかされている子供のような性質で、ほしいといっていた物を貰っても、その品の好悪次第で、容易に満足しないのでございます。 そのわたくしでもこの本には満足せずにはいられません。なぜと申しますに、源氏物語を翻訳するに適した人を、・・・ 森鴎外 「『新訳源氏物語』初版の序」
出典:青空文庫