・・・ 庄太郎は町内一の好男子で、至極善良な正直者である。ただ一つの道楽がある。パナマの帽子を被って、夕方になると水菓子屋の店先へ腰をかけて、往来の女の顔を眺めている。そうしてしきりに感心している。そのほかにはこれと云うほどの特色もない。・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・「西宮さんと言やア、あの人とよく一しょに来た平田さんは、好男子だッたッけね」「名山さん、お前岡惚れしておいでだッたね」「虚言ばッかし。ありゃ初緑さんだよ」「吉里さんは死ぬほど惚れていたんだね」「そうだろうさ。あの善さんた・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・それがすばらしい好男子だったのです。あなたのおっしゃるには、「これが、わたくしの夫ですから、よく見ておおきなさい」と云うことでした。わたくしは仰せの通りよく拝見しました。その写真の男は Dorian Gray と云う青年はあんなだったかと思・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
出典:青空文庫