・・・然し、そうではなく、幾年か、感興が起るにつれて、その当時の心境なり、事件なりを、如実に描くことは又楽しい。結婚後、まる二年の年月を経、今、自分は、少くとも当面の生活には馴れたことを感じる。同時に落付いた。胸をわくわくさせるような物珍らしさが・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・その評の当否は簡単には云えないけれども、もしそういう傾向が見られたとして、それはその頃の一般の生活意欲がどんなに創造的なものを求め、それをうち立てて行こうとする熱意に満ちていたかという事実を如実に語っているのだと思われる。生活そのものに生新・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・ あの時分――女学校の四五年の頃を追想すると、斯うやって夏の田舎の屋根裏の小部屋で机に向っていても、種々な情景が如実に浮み上り、微笑を禁じ得ない心持になる。 私が一番初め千葉先生を教壇に見たのは、四年の西洋歴史の時からであった。・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
・・・の中にこの母の、美しくて強いがまとまりのなかった一生の印象が如実に描かれている。野蛮と暗黒と慾心の闘争との煮えたぎっているような祖父の家の生活の中で自分をたいして構ってくれなかった母、子供である自分を忘れたように男と家を出てゆく母、そういう・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
・・・の国際情勢というものの観かたやそれへの処しかたが如実に描き出されていて、非常に面白いし深く反省もさせる小さい本の一つであった。ヨーロッパの文化の基底をなして来たフランスの個性の評価、「指導的な個人たち」が、第二次世界大戦へ向って動く各国間の・・・ 宮本百合子 「よもの眺め」
・・・、処刑された数人の党員の写真、シベリアの流刑地で労役の合間に石に腰かけ、本を読んでいる人々の姿、この辺になって来ると、もう皆はさっさと室を通りすぎることは出来ない、一枚一枚の写真が、ロシアの革命の道を如実に語っている。 一九〇五年の、全・・・ 宮本百合子 「ロシアの過去を物語る革命博物館を観る」
・・・感覚触発の対象 未来派、立体派、表現派、ダダイズム、象徴派、構成派、如実派のある一部、これらは総て自分は新感覚派に属するものとして認めている。これら新感覚派なるものの感覚を触発する対象は、勿論、行文の語彙と詩とリズムとからで・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・どの流派を追い、どの筆法を利用するにしても、要するに洋画家の目ざすところは、目前に横たわる現実の一片を捕えて、それを如実に描き出すことである。彼らにとって美は目前に在るものの内にひそんでいる。机の上の果物、花瓶、草花。あるいは庭に咲く日向葵・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・我々はただ現在の運命を如実に見きわめることによって、多産なる未来の道をきり開く事ができる。時には過去の改造さえ不可能ではない。四 また私は「あの時ああすれば間に合ったのに」と感じた自分の心理について考えた。「あの時」はもう過・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
・・・人類を自己の内に切実に感ずるとき、価値の階級は初めて如実に感得せられる。低劣なる価値に没頭して一切の高き価値に無関心なる雰囲気においては、価値は明らかに逆倒せられ人類の意志は歪にせられている。岸田君のいわゆる「世界の美術の病気」とはこれであ・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫