・・・りをつくさしめ、あえて他の能力の発育をかえりみるにいとまなく、これがために業成り課程を終て学校を退きたる者は、いたずらに難字を解し文字を書くのみにて、さらに物の役に立たず、教師の苦心は、わずかにこの活字引と写字器械とを製造するにとどまりて、・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・こういう本は字引がいらない。 十一月三日。 時計がまた一時間進んだ。すっかり極東時間――日本と同じ時間になった。モスクワでは、時々夜おそくなるまで何かしていてふと思い出し、 ――今日本何時頃だろ。 ――今――二時だね、じ・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ 私は奮起して字引と首引き、帳面に自分でわかったと思う翻訳をしてゆくのですが、女学校ではピータア大帝が船大工の習業をしたというような話をよんでいるのですから、どうもデルフィの神殿だとか、破風だとか、柱頭、フィディアス等々を克服するのは容・・・ 宮本百合子 「写真に添えて」
・・・生態という字を私たちの常識は例えば植物生態学、動物生態学というつづけかたでこれまでうけとって来ていると思う。字引をひくと、生態学は生物と外囲及び生物と他の生物との関係を研究する学科、という説明がある。そういう自然科学の一部門の用語である。「・・・ 宮本百合子 「生態の流行」
・・・ 一寸何をしていいかわからなかったので、百科大辞典を片っぱしから見て行く、私はよく、一寸手のあいた時に、字引や言海を見るのがすきだけれどもこれもくせの一つとしてあげるべき筈のものだ。 机が大変よごれたので水色のラシャ紙をきって用うと・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・の立派さをいろいろな角度から研究して、ちょうどヨーロッパでシェークスピア字引があるように、「源氏物語」の中に使われている言葉について、家の造作について、着物の色合について、一つの字引のようなものさえできているような研究がございます。けれども・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・父はその英語の詩を書いてどうせ私に読めないだろうから、そこに使ってある字へ皆すじを引いた字引も一緒に入れてやれと云ったそうであった。私は妹にその詩というのを出して貰って見た。小判の白い平凡な書簡箋に見馴れた父の万年筆の筆蹟で、ところどころ消・・・ 宮本百合子 「わが父」
・・・動的な役割を持っている文部省でさえも創設されたばかりには、本当に日本の人民の間に文字を普及させ、常識を広め、輿論の担い手となり得る人民の文化を導き出そうという熱心な意図をもっていて、先ず『言海』という字引を出したりした。文部大臣であった森有・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫