・・・要旨を掻摘むと、およそ弁論の雄というは無用の饒舌を弄する謂ではない、鴎外は無用の雑談冗弁をこそ好まないが、かつてザクセンの建築学会で日本家屋論を講演した事がある、邦人にして独逸語を以て独逸人の前で演説したのは余を以て嚆矢とすというような論鋒・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・今度の学会で先生が報告するはずだったんだが、今のままじゃまだ貧弱でね」 四方山の話が出た。行一は今朝の夢の話をした。「その章魚の木だとか、××が南洋から移植したというのはおもしろいね」「そう教えたのが君なんだからね。……いかにも・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・多くの通俗雑誌や学会の記事の中でもそういうものを拾い出せとならば拾い出すことははなはだ容易であると思われる。 しかし一方でまた、たとえ日刊新聞や月刊大衆雑誌に掲載されたとしても、そういう弊に陥ることなくして、永久的な読み物としての価値を・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 学会などにおけるディスカッション振りにも、やはり優れた頭脳と蘊蓄を示して、常に「最後の言葉」を話す人であったそうである。 学生の卒業論文などについても指導甚だ懇切であった。初めにはいきなり酷く叱られて慄え上がるが、教えを受けて引下・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・ ついこのあいだもある学者がアメリカの学会へ行って「黄海の水を日本海へ注入して電力を起こす」という設計を提出して世界の学者を驚かせたという記事が出た。数日後に電車でひょっくりその学者に会って「君はアメリカに行っているはずじゃないですか」・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・故日下部博士が昔ある学会で文明と地震との関係を論じたあの奇抜な所説を想い出させられた。高松という処の村はずれにある或る神社で、社前の鳥居の一本の石柱は他所のと同じく東の方へ倒れているのに他の一本は全く別の向きに倒れているので、どうも可笑しい・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・ ある若い学者がある日ある学会である論文を発表したその晩に私の宅へ遊びに来てトリオの合奏をやっていたら、突然某新聞記者が写真班を引率して拙宅へ来訪しそうして玄関へその若い学者T君を呼び出し、その日発表した研究の要旨を聞き取り、そうしてマ・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・ある。 事実を確かめないで学者が机上の議論を戦わして大笑いになる例はディッケンスの『ピクウィック・ペーパー』にもあったと思うが、現実の科学者の世界にもしばしばある。例えばこんな笑い話があった。ある学会で懸賞問題を出して答案を募ったが、そ・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・近着のアメリカ地理学会の雑誌の評論欄にわが国の地球物理学者の仕事を紹介してあるその冒頭に「地殻変動の測定に関してはいかなる国民も日本人に匹敵するものはない」と書いてある。 この重要な研究の基礎となる実測資料は実にことごとくわが陸地測量部・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・という意味の題目で一つのおもしろい論文を東京数学物理学会に提出した事があった。私は今その内容を記憶しないのを遺憾とする。この論文はしかしなぜか学会の記事には載らなかった。あまり変なものだというのでどこかで握りつぶされたといううわさもある。そ・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
出典:青空文庫