・・・その後東宝経営者は、興業資本の利潤追及の方向を強化して、保守的な文化性の低いスター中心に作った第二組合に、安価なエロ・グロ・剣劇映画を作らせ第一組合を無活動におとしいれ数百名のくびきりを行った。 輸入映画が国外の興業資本によって日本の文・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・一応とりあげられている、穀物の安価、馬を熊にとられた事件等だけでは読者に北海道へ移住した農民の深刻などたん場の有様がうつらないのである。それは主人公宗一の移民としての日常生活があまり深く現実的にかかれていないところからも来ると思う。文章に、・・・ 宮本百合子 「小説の選を終えて」
・・・以上のような安価な見透しに立って、インテリゲンチア作家たちは、つまりマルクス主義のこちら側で、自己をうちたてよう、強い自己を文学の上にうちたてて右からの波、左からの吸引に対し、高邁に己れ一人を持そうとしていると観察されるのである。純文学家が・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ 大宅氏は、『文芸』の論文で腹立たしげな口ぶりをもって、「日本の文化全体を支配している安価な適応性の一つ」として転向の風に颯爽と反抗するプロレタリア作家の見えないことを痛憤している。階級的立場のはっきりした人物は、今日、加藤勘十が見得を・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・例えば信州の山奥で繭安価のために貧窮し、組合の組織を求めるようになった一農夫を描くとする。われわれプロレタリア作家の眼が、ただその局部的現象だけを捕えたのでは足りない。言葉としてその小説の中に書かれないにしろ、プロレタリア作家は信州の繭安価・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・あるいはまた急に踏まれた安価にまけて、買い手を呼び止める、買い手はそろそろ逃げかけたので、『よろしい、お持ちなされ!』 かれこれするうちに辻は次第に人が散って、日中の鐘が鳴ると、遠くから来た者はみな旅宿に入ってしまった。 シュー・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・現世の濁った空気の中に何の不満もなさそうに栄えている凡庸人に対しては、烈しい憎悪を感じます。安価な楽天主義は人生を毒する。魂の饑餓と欲求とは聖い光を下界に取りおろさないではやまない。人生の偉大と豊饒とは畢竟心貧しき者の上に恵まれるでしょう。・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・「人生を見る眼が鈍く浅い。安価な自覚でよい心持ちになっている。自分で自分を甘やかすのだ。」こう自分で自分を罵る。そして自分の人格の惨めさに息の詰まるような痛みを感ずる。 しかしやがて理解の一歩深くなった喜びが痛みのなかから生まれて来る。・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫