・・・ 斎場を出て、入口の休所へかえって来ると、もう森田さん、鈴木さん、安倍さん、などが、かんかん火を起した炉のまわりに集って、新聞を読んだり、駄弁をふるったりしていた。新聞に出ている先生の逸話や、内外の人の追憶が時々問題になる。僕は、和辻さ・・・ 芥川竜之介 「葬儀記」
・・・現に昨日安倍の晴明も寿命は八十六と云っていました。 使 それは陰陽師の嘘でしょう。 小町 いいえ、嘘ではありません。安倍の晴明の云うことは何でもちゃんと当るのです。あなたこそ嘘をついているのでしょう。そら、返事に困っているではありま・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・ 地を相するというのは畢竟自然の威力を畏れ、その命令に逆らわないようにするための用意である。安倍能成君が西洋人と日本人とで自然に対する態度に根本的の差違があるという事を論じていた中に、西洋人は自然を人間の自由にしようとするが日本人は自然・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・また友人小宮豊隆・安倍能成両氏の著書から暗示を受けた点も多いように思われるのである。 なお拙著「蒸発皿」に収められた俳諧や連句に関する所説や、「螢光板」の中の天災に関する諸編をも参照さるれば大幸である。・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
木の葉の間から高い窓が見えて、その窓の隅からケーベル先生の頭が見えた。傍から濃い藍色の煙が立った。先生は煙草を呑んでいるなと余は安倍君に云った。 この前ここを通ったのはいつだか忘れてしまったが、今日見るとわずかの間にもうだいぶ様子・・・ 夏目漱石 「ケーベル先生」
・・・今度私が此処に現われたのは安倍能成という――これも偉い人で、やはり私の教えた人でありますが――その人が何でも弁論部の方と御懇意だというので、その安倍能成君を通じての御依頼であります。その時私は実は御断りをしたかった。というのは、近来頭の具合・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
共学 期待はずれた今度の内閣改造の中で僅かに生彩を保つのは安倍能成氏の文部大臣であるといわれる。朽木の屋台にたった一本、いくらかは精のある材木が加えられたところで、その大屋の傾くことを支え切れるもので・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・ おととしの十二月二十日すぎに、巣鴨から釈放されて、社会生活にまぎれこんで来た児玉誉士夫、安倍源基らの人々の氏名経歴を思い出して見れば、それにつづく一九四九年の権力が、そのかげにどんな要素をよりつよく含むようになったかということはおのず・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・そのなかの一人である安倍源基は特高課長、警視総監、内務大臣と出世したが、その立身の一段一段は小林多喜二の血に染められ岩田義道の命をふみ台にしている。天羽英二は情報局長としてあんなに人民の言論と思想、文化の自由を根こそぎ刈った。 これらの・・・ 宮本百合子 「事実にたって」
・・・ この間安倍能成氏が一高の校長となったときの何かの談話で、現代の青年はさまざまの外面的な慰安を求める代り、友情に慰安を求めよ、という意味を云われたということをきいた。安倍さんという人は漱石門下の一人で、昔は「大思想家の人生観」という・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
出典:青空文庫