・・・寧ろ清らかな透明な限りのない愉快と安静とが菜食にあるということを申しあげるのであります。」老人は会釈して壇を下り拍手は天幕もひるがえるようでした。祭司次長は立って異教席の方を見ました。異教席から瘠せた顔色の悪いドイツ刈りの男が立ちました。祭・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・主人公の僚友に対する責任感が、自身患者であるその人個人の安静の犠牲によって果されるしかないという療養所内の現実が、もっと読者に省察させるモメントとし、とらえられてよかった。 「縫い音」 関としを 「やもめ倶楽部」 赤城・・・ 宮本百合子 「『健康会議』創作選評」
・・・ 誰でも知って居る通り中耳炎の切開後などは殊に安静を保って居べき必要がある。 それをまだ疵がすっかり癒着もしない内からかなり遠い大学から林町までの徒歩を許すと云う事は考えられない事であり又我々なら許されたとて容易に決行する勇気は持た・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・p.272○彼は神を安静として夢みたのに、しかも見出したのは矢張り火としてであった。p.273○つねに逆に還り、徹底的な対照になり切っている作家ドストイェフスキーは信仰の必要をとき 他の誰よりも激越にそれを主張しているが――しかし彼・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・ 苦しい生活に疲れた彼の心は、ひたすら安静を望んでいるのである。もう激しい世の中から隠遁してしまいたくなっているのである。 けれども、そうは出来ない彼は、また自分の心がそれを望んでいるのだとは気づかない彼は、老耄が、もう来たと思った・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ その後、昨年夏、再び心臓障害と高血圧に苦しみ、十二月、電気写真によって心臓の肥大と左室機能障害、尿中に多量の蛋白が発見され、絶対安静をいいわたされました。 十七年危篤に陥ったとき腎臓をいためていたまま戦時中手当ができず、その後・・・ 宮本百合子 「文学について」
・・・金槌の音は三日間患者たちの安静を妨害した。一日の混乱は半カ月の静養を破壊する。患者たちの体温表は狂い出した。 しかし、この肺臓と心臓との戦いはまだ続いた。既に金網をもって防戦されたことを知った心臓は、風上から麦藁を燻べて肺臓めがけて吹き・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫