・・・私が今晩こうやって演説をするにしても、私の一字一句に私と云うものがつきまつわっておってどうかして笑わせてやろう、どうかして泣かせてやろうと擽ったり辛子を甞めさせるような故意の痕跡が見え透いたら定めし御聴き辛いことで、ために芸術品として見たる・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・ゾラ君なども日本へ来て寄席へでも出られたら、定めし大入を取られる事であろうと存じます。 現代文学は皆この弊に陥っているとは無論断言しませんが、いろいろな点においてこの傾向を帯びていることは疑いもないと思います。そうしてこの傾向は真の一字・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・特にその最後の言を見よ、地下の釈迦も定めし迷惑であろうと、これ何たる言であるか、何人か如来を信ずるものにしてこれを地下にありというものありや、我等は決して斯の如き仏弟子の外皮を被り貢高邪曲の内心を有する悪魔の使徒を許すことはできないのである・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・さて今度はとんだ災難で定めしびっくりなさったでしょう。」 チュンセ童子が申しました。「これはお語誠に恐れ入ります。私共はもう天上にも帰れませんしできます事ならこちらで何なりみなさまのお役に立ちたいと存じます。」 王が云いました。・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・だから定めし今度の恋愛には申し分があろうと思われたらしい。 第一に恋愛というものを、私は社会的階級的全生活の一部分として理解しているが、決して恋が命とは考えていません。心中する芝居を見るとカンシャクをおこす女であります。 又、恋愛は・・・ 宮本百合子 「ゴルフ・パンツははいていまい」
出典:青空文庫