・・・しかし実戦に臨んで来た牧野は、そう云う連中とは没交渉に、ただにやにやと笑っていた。「戦争もあの通りだと、楽なもんだが、――」 彼は牛荘の激戦の画を見ながら、半ば近所へも聞かせるように、こうお蓮へ話しかけた。が、彼女は不相変、熱心に幕・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・相懸り法は当時東京方棋師が実戦的にも理論的にも一応の完成を示した平手将棋の定跡として、最高権威のものであったが、現在はもはやこの相懸り定跡は流行せず、若手棋師は相懸り以外の戦法の発見に、絶えず努力して、対局のたびに新手を応用している。が、六・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・所どころ、実戦に参加した者でなければ書けないなま/\しい戦場の描写がある。後の銃後と相俟って、旅順攻囲の終始が記録的に、しかも、自分一個の経験だけでなく、軍事的知識と見聞をかき集めて、戦線を全貌的に描き出そうと努めてある。しかも、多くを書い・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・云わば実戦に堪える体力を養ってくれた教練のようなものであったのである。平凡な結論ではあるが、学生のときには講義も演習もやはり一生懸命勉強するに限るのであろう。 しかし、米の飯だけでは生きては行かれぬように、学校の正課を正直に勉強するだけ・・・ 寺田寅彦 「科学に志す人へ」
出典:青空文庫