・・・両階級の私生児がいちはやく真の第四階級によって倒されるためには、すなわち真の無階級の世界が闢かれるためには、私生児の数および実質が支配階級という親を倒すに必要なだけを限度としなければならない。もしその数なり実質なりが裕かに過ぎたならば、ここ・・・ 有島武郎 「片信」
・・・とある其事である(約翰、単に神の子たるの名称を賜わる事ではない、実質的に神の子と為る事である、即ち潔められたる霊に復活体を着せられて光の子として神の前に立つ事である、而して此事たる現世に於て行さるる事に非ずしてキリストが再び現われ給う時に来・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・もっともこれはコーヘンとともに新カント派のいわゆる形式主義の倫理学であって、流行の「実質的価値の倫理学」とは相違した立場であるが、それにもかかわらず、深い内面性と健やかな合理的意志と、ならびに活きた人生の生命的交感とをもって、よく倫理学の本・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・如何に少い方が大義名分を立てゝその行為を飾ろうとも、実質が泥棒であることに変りはない。 又、三人の泥棒が、その縄張り地域の広狭から、それを公平に分配することを問題にして、喧嘩を始めたらどうであるか。如何に正義、人道を表面に出して、自己の・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・そしておそらく古い昔から実質的には今と同じ状態がなんべんとなく少しずつちがった形式で繰り返されながら、あらゆる異種の要素がおのずから消化され同化され、無秩序の混乱から統整の固有文化が発育して来ると、たとえだれがどんなに骨を折ってみても、日本・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・ それにしても神保町の夜の露店の照明の下に背を並べている円本などを見る感じはまずバナナや靴下のはたき売りと実質的にもそうたいした変わりはない。むしろバナナのほうは景気がいいが、書物のほうはさびしい。「二人行脚」の著者故日下部四郎太博・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ 椎塚氏の綿密な静物が私に与える感じは、丁度グロテスクの感じと実質的に同じ感じである。それは必ずしもグロテスクな題材を取扱ったものでなくても、そうである。 これと反対に、例えばザッキンの妙な人形の絵など、随分形式的にはグロテスク・・・ 寺田寅彦 「二科会展覧会雑感」
・・・そうしてこれに対する解説を近代的な言葉で発展させればいろいろむつかしくも言えるようであるが、しかしわれわれ日本の旧思想の持ち主の目から見れば実質的にはいっこう珍しくもなんともないことのように思われてしかたがない。つまり日本人がとくの昔から、・・・ 寺田寅彦 「ラジオ・モンタージュ」
・・・実際今の世で彼らは名前には職業として存在するが実質の上ではほとんど職業として認められないほど割に合わない報酬を受けているのでこの辺の消息はよく分るでしょう。現に科学者哲学者などは直接世間と取引しては食って行けないからたいていは政府の保護の下・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・けれどもこういう場合にはこの型なり形式なりの盛らるべき実質、すなわち音楽で云えば声、芝居で云えば手足などだが、これらの実質はいつも一様に働き得る、いわば変化のないものと見ての話であります。もし形式の中に盛らるべき内容の性質に変化を来すならば・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
出典:青空文庫