・・・どうも物盗りを捕えて、これからその住家へ、実録をしに行く所らしいのでございますな。「しかも、その物盗りと云うのが、昨夜、五条の坂で云いよった、あの男だそうじゃございませぬか。娘はそれを見ると、何故か、涙がこみ上げて来たそうでございます。・・・ 芥川竜之介 「運」
・・・これがまた定って当時の留書とかお触とか、でなければ大衆物即ち何とか実録や著名の戯作の抜写しであった。無論ドコの貸本屋にも有る珍らしくないものであったが、ただ本の価を倹約するばかりでなく、一つはそれが趣味であったのだ。私の外曾祖父の家にもこの・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・文徳実録に見える席田郡の妖巫の、その霊転行して心をくらい、一種滋蔓して、民毒害を被る、というのも心の二字が祇尼法の如く思えるところから考えると、なかなか古いもので、今昔物語に外術とあるものもやはり外法と同じく祇尼法らしいから、随分と索隠行怪・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
一九四九年の春ごろから、ジャーナリズムの上に秘史、実録、実記と銘をうたれた記録ものが登場しはじめた。 氾濫した猥雑な雑誌とその内容はあきられて記録文学、ルポルタージュの特集が新しい流行となった。 記録文学、ノン・フ・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・なる諸相の逆転として見ようとするこの見解に対して、所謂大衆向きであっても而も社会の現実の必然を必然として客観的に描く「実録文学」という提案をしたのは『文学案内』による貴司山治氏であった。多難なリアリズムの問題、文学の真の意味での大衆性の課題・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・山口一太郎氏の二篇の実録をよむと、この人が二・二六事件をクライマックスとする陸軍部内の青年将校の諸陰謀事件に、密接な関係をもっていたことがはっきり書かれている。同氏は二・二六事件の本質を、陸軍内部の国体原理主義者――皇道派と、人民覇道派――・・・ 宮本百合子 「作家は戦争挑発とたたかう」
・・・一九一八年から二〇年にかけてのヴォルガ・カスピ海地方における赤軍の活動、ソヴェト権力確立までの実録だ。が、その事実の歴史的、政治的把握の確かさ、文章の活々した情熱、恐ろしい困難、闘争、建設を貫き彼女が身をもって経験した数々のエピソードの感銘・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
出典:青空文庫