・・・ それは家畜撲殺同意調印法といい、誰でも、家畜を殺そうというものは、その家畜から死亡承諾書を受け取ること、又その承諾証書には家畜の調印を要すると、こう云う布告だったのだ。 さあそこでその頃は、牛でも馬でも、もうみんな、殺される前の日・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・ СССРで集団農業に移ろうとした時、農民及政府双方で一番困難したのは家畜の問題だった。穀類集団農業から集団牧畜へ。これは常に積極的刺戟を加えられている点である。この新聞で見ると牛乳協定は非常に農民の利益を計って改正されている。去年の牛・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ 孤児として修道院で育てられたマルグリットは、農家の家畜番をする娘として働き、やがてパリに来て初めは裁縫工場に働き、やがてお針さんをしているうちに眼が悪くなり、だんだん手さぐりで縫うよりしかたがないようになった。長い間本をよむことや書く・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・穀物、家畜を積んだ貨車と、農具を満載した貨車とがすれちがった。 都会だ。工場だ。都会の工業生産と、労働者との姿が巨大に素朴にかかれている。 閲兵式につづいてデモはモスクワ全市のあらゆる街筋から、この赤い広場に流れこむ。 日が暮れ・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・しかし、今は、そういう家畜のような生きかたをしないでよい時になりました。自由の時代がはじまった、ということは、私たち一人一人が、自分の希望と共に其を実現してゆく責任をもって生きるようになったということにほかなりません。ひとのせいにして置けな・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・彼の前に米国の女性は愛し、尊むべき女人ではなくて或人の言を借りて云えば、単に“Female”であるに過ぎない、其も物質的な、金の掛る家畜だとまで酷評されるのでございます。 私共は、斯様な放言に対して、総ての女性の尊厳の為に飽くまでも申さ・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・牝牛を買いたく思う百姓は去って見たり来て見たり、容易に決心する事ができないで、絶えず欺されはしないかと惑いつ懼れつ、売り手の目ばかりながめてはそいつのごまかしと家畜のいかさまとを見いだそうとしている。 農婦はその足もとに大きな手籠を置き・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・このめぐりの野は年毎に一たび焚きて、木の繁るを防ぎ、家畜飼う料に草を作る処なれば、女郎花、桔梗、石竹などさき乱れたり。折りてかえりて筒にさしぬ。午後泉に入りて蟹など捕えて遊ぶ。崖を下りて渓川の流に近づかんとしたれど、路あまりに嶮しければ止み・・・ 森鴎外 「みちの記」
・・・それは穏かに庭で育った高価な家畜のような淑やかさをもっていた。また遠く入江を包んだ二本の岬は花園を抱いた黒い腕のように曲っていた。そうして、水平線は遙か一髪の光った毛のように月に向って膨らみながら花壇の上で浮いていた。 こういうとき、彼・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・家とか道具とか家畜とか家禽とか、特に男女の人物とかがそれである。伝説では、殉死の習慣を廃するために埴輪人形を立て始めたということになっているが、その真偽はわからないにしても、とにかく殉死と同じように、葬られる死者を慰めようとする意図に基づい・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
出典:青空文庫