・・・動物の中の原生動物と植物の中の細菌類とは殆んど相密接せるものである。又動物の中にだってヒドラや珊瑚類のように植物に似たやつもあれば植物の中にだって食虫植物もある、睡眠を摂る植物もある、睡る植物などは毎晩邪魔して睡らせないと枯れてしまう、食虫・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・諷刺するもの、そのものの属している階級の力のもりあがりと密接な関係をもって、諷刺の態度が時代によって違う。 よく例にとられるチェホフの諷刺的短篇を見よう。 チェホフは小市民的卑俗さ、愚劣な伝習というようなものを常に鋭く諷刺し、その下・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
映画女優のあたまのよさが、一つの快適な美しさ、あるいは深い心と肉体の動きの感銘として作品のなかに十分活かされている場合をみると、大抵のとき、それは製作の方向、監督のみちびきかたと密接な関係をもっているように思える。したがっ・・・ 宮本百合子 「映画女優の知性」
・・・情慾の力強さ、其の持つ歓びと怖れと悲しみの錯綜した経験などは、其に実際当って見なければ、其がどれ程まで霊と密接なものであり、畏るべきものであるかと云うことは分るまい。 自分は、二元論者ではない。其故、或時代の人々のように、人間が――異性・・・ 宮本百合子 「黄銅時代の為」
・・・若しかすると、折々記憶の裡に浮み上るその頃の自分が、我ながら無条件に可愛ゆいとは云いかねるような心の容を持っているために、一層気持がこじれるから、兎に角、平常、自分の小学校時代、誠之、というものは、密接な割に意識の底に沈められて来たのである・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
・・・自分の跨がっている坑の直前は背丈位の石垣になっていて、隣の家の横側がその石垣と密接している。物音はその一番奥の所でしている。表から磚の積んだのが見えている辺である。これだけの事を考えて、小川君はとうとう探検に出掛ける決心をしたそうだ。無論便・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・この密接な芸術と宗教との結合が、偶像崇拝に対してきわめて正当な根拠を与え得るのである。 私は、昔ながらの山野と矮屋とを見慣れた我々の祖先が、かつて夢みたこともない壮大な伽藍の前に立った時の、甚深な驚異の情を想像する。 伽藍はただ・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・私はそういうセンスが藤村の文体と密接に関係しているように感じる。一例をあげると、藤村のしばしば使っている「……と言って見せた」という言い回しである。前後の連関から見て、他の作者なら単純に「……と言った」としてしまうところに、藤村はわざわざこ・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
・・・彼はこの瞬間にじじいの霊を中に置いてこれらの人々の心と思いがけぬ密接な交通をしているのを感じました。実際彼も涙する心持ちで、じじいを葬ってくれた人々に、――というよりはその人々の足に、心から感謝の意を表わしていました。そうしてこの人々の前に・・・ 和辻哲郎 「土下座」
・・・その間に密接な連関の存することは察するに難くないであろう。 のみならず顔面のこのような作り方は無自覚的になされ得るものではない。顔面は人の表情の焦点であり、自然的な顔面の把捉は必ずこの表情に即しているのである。ことに能面の時代に先立つ鎌・・・ 和辻哲郎 「能面の様式」
出典:青空文庫