・・・いたずらものの野鼠は真二つになって落ち、ぬたくる蛇は寸断になって蠢くほどで、虫、獣も、今は恐れて、床、天井を損わない。 人間なりとて、心柄によっては無事では済まない。かねて禁断であるものを、色に盲いて血気な徒が、分別を取はずし、夜中、御・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・それを、褄は深いほど玉は冷たそうな、膝の上へ掛けたら、と思うが、察するに上へは出せぬ寸断の継填らしい。火鉢も無ければ、行火もなしに、霜の素膚は堪えられまい。 黒繻子の襟も白く透く。 油気も無く擦切るばかりの夜嵐にばさついたが、艶のあ・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・ おりからひとしきり荒ぶ風は冷を極めて、手足も露わなる婦人の膚を裂きて寸断せんとせり。渠はぶるぶると身を震わせ、鞠のごとくに竦みつつ、「たまりません、もし旦那、どうぞ、後生でございます。しばらくここにお置きあそばしてくださいまし。こ・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・みて箱館の旧を思い、当時随行部下の諸士が戦没し負傷したる惨状より、爾来家に残りし父母兄弟が死者の死を悲しむと共に、自身の方向に迷うて路傍に彷徨するの事実を想像し聞見するときは、男子の鉄腸もこれが為めに寸断せざるを得ず。夜雨秋寒うして眠就らず・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・当時の生活は、時間的に寸断されていた上に、一つの作品を完成させるに必要な作者の一貫した生活気分が合法生活と非合法生活との間にわけられていて、それ自身一つの客観な一つの世界としてかたちづくられなければならない作品はまとまらなかった。 この・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・人民が権力によって統一的な民主と平和のための戦線を寸断されないために。人民別、専門別、職域別、都会対地方とセクト的な感情を利用されて孤立させられる危険を克服するために。「労働者階級の意識は、たとえそれが如何なる階級に関係したことであろう・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
出典:青空文庫