・・・が、今日坪内君はこれを傑作とも思うまいし、また坪内君の劇における功労は何百年来封鎖して余人の近づくを許さなかったランド・オブ・シバイの関門を開いたのであって『桐一葉』の価値を論ずるが如きはそもそも末である。 早稲田における坪内君の功蹟は・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・「原稿料もどうやら封鎖になるんじゃないかな。どうせ書きまくったって、新券ははいらぬのだし、煙草も吸えぬし、仕事はへらすんだね」 そうなれば、夫婦仲もうまく行くだろうと言うと、「へらすと言ったって、途中でやめるわけに行かぬ連載物が・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・しかも、この総勘定はそのまま封鎖の中に入れられ、もはや新しい生活の可能性に向って使用されることがない。彼等の文学のうち、比較的ましな文学の中には彼等がいかに生きて来たかということは書かれているだろうが、いかに生くべきかという可能性は描かれて・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・よしんば、仕事の報酬が全部封鎖されるとしても、引き受けた仕事だけは約束を果さねばならないと、自虐めいた痛さを腕に感じながら、注射を終った。 書き上げたのは、夜の八時だった。落ちは遂に出来なかったが、無理矢理絞り出した落ちは「世相は遂に書・・・ 織田作之助 「郷愁」
・・・女を買おうと思えば、少しいいのは皆んな封鎖だろう」「そういったような工合だけれど、この節はあながちそうとも限らんのや」 電話が二度も演舞場からかかってきて、何やらの踊りの鼓を受け持つことになっている歌子の来ようが遅いので、一度は後と・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・預金封鎖の強化と失業におびやかされて、芝居ずきの人も手当りばったりに金を出さなくなったわけです。本やでも同じことが云われはじめました。本当にいい本必要な本しか売れにくくなったと。 ここに、生活の条件とぴったりあった人の考えかた、判断とい・・・ 宮本百合子 「朝の話」
・・・しかしここで注目すべきことは、日本では、明治開化期が、二十二年憲法発布とともに、却って逆転させられて、人民の自由の封鎖がはっきりその頃からはじまった点である。それまでは闊達であった婦人の政治的活躍も様々の法令や規則で禁止されるようになったし・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
・・・積極的に結婚をする人は、女の人にしても、生活力が強いし向上心もあるから、家庭に封鎖されることは苦しいのです。社会的活動から遮断されたいきぐるしさを感じるのです。現在ではそういう若い妻たちが案外に多いのだから、地域的な民主的組織が、主婦という・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・それぞれの権威で文壇を封鎖している旧いブルジョア文学にはあき足らず、さりとて無産階級の文学運動に対しては自分たちの属している社会層の小市民風な生活感情から共感がもてず、どちらに向っても抵抗しながらドイツの表現派の手法を模して漠然と新しい生活・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・過去の日本の封建性、軍国主義は、日本のヒューマニティーを封鎖し、破壊し、生命そのものをさえ、その人のものとさせなかった。ヒューマニティーの奪還、生命に蒙った脅迫への復讐として、あらゆる破滅の瞬間にも自身のものとして確認された肉体によって、現・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
出典:青空文庫