・・・これでは旅立ちの日を延ばさなくてはなるまいかと言って、女房と相談していると、そこへ小女が来て、「只今ご門の前へ乞食坊主がまいりまして、ご主人にお目にかかりたいと申しますがいかがいたしましょう」と言った。「ふん、坊主か」と言って閭はしばら・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・りよは十人並の容貌で、筋肉の引き締まった小女である。未亡人は頭痛持でこんな席へは稀にしか出て来ぬが、出て来ると、若し返討などに逢いはすまいかと云う心配ばかりして、果はどうしてこんな災難に遇ったことかと繰り返してくどくのであった。日が窪から来・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・石田は口入の上さんを呼んで、小女をもう一人傭いたいと云った。上さんが、そんなら内の娘をよこそうと云って帰った。 口入屋の娘が来た。年は十三で久というのである。色の真黒な子で、頗る不潔で、頗る行儀が悪い。翌朝五時ごろにぷっという妙な音がす・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫