・・・物かげの男は池に身を投げはしまいかとそればかりを気にして一足うごくごとに自身も一足ずつうごいて居る。やがて足元を定めて紅はキチンとしまったかおをして家の方にあるき去った。物かげの小男はなんとなくあっけないような心持でそのあとにつづいた。・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・木村は病気というものをしたことがないが、小男で痩せているので、徴兵に取られなかった。それで戦争に行ったことはない。しかし人の話に、壮烈な進撃とは云っても、実は土嚢を翳して匍匐して行くこともあると聞いているのを思い出す。そして多少の興味を殺が・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・どちらも痩せてみすぼらしい小男で、豊干のような大男ではない。 道翹が呼びかけたとき、頭を剥き出した方は振り向いてにやりと笑ったが、返事はしなかった。これが拾得だと見える。帽をかぶった方は身動きもしない。これが寒山なのであろう。 閭は・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
出典:青空文庫