・・・聴けば、秋山さんはあれから四国の小豆島へ渡って丸金醤油の運搬夫をしているうちに、土地の娘と深い仲になったが、娘の親が大阪で拾い屋などしていた男には遣らぬと言って、引き離されてしまったので、やけになり世にすねたあげく、いっそこの世を見限ろうと・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
私の郷里、小豆島にも、昔、瀬戸内海の海賊がいたらしい。山の上から、恰好な船がとおりかゝるのを見きわめて、小さい舟がする/\と島かげから辷り出て襲いかゝったものだろう。その海賊は、又、島の住民をも襲ったと云い伝えられている。・・・ 黒島伝治 「海賊と遍路」
・・・──小豆島の言葉をそのまままる出しに使っとる。彼に云わせりゃ、なんにも意識して使って居るんではない。笑われてもひとりでに出て来るから仕ようがない。 それだのに、やつは、町の者のように華やかな生活をしてみたいと思っているからおかしい。野心・・・ 黒島伝治 「自画像」
小豆島にいて、たまに高松へ行くと気分の転換があって、胸がすツとする。それほど変化のない日々がこの田舎ではくりかえされている。しかし汽車に乗って丸亀や坂出の方へ行き一日歩きくたぶれて夕方汽船で小豆島へ帰ってくると、やっぱり安・・・ 黒島伝治 「四季とその折々」
用事があって、急に小豆島へ帰った。 小豆島と云えば、寒霞渓のあるところだ。秋になると都会の各地から遊覧客がやって来る。僕が帰った時もまだやって来ていた。 百姓は、稲を刈り、麦を蒔きながら、自動車をとばし、又は、ぞろ・・・ 黒島伝治 「小豆島」
・・・──という春月の気持よりも、この畑へあがって行く女に同感しながら丘を下った。─小豆島にて─ 黒島伝治 「短命長命」
・・・親爺が送って来てくれた。小豆島で汽船に乗って、甲板から、港を見かえすと、私には、港がぼやけていてよく分らなかった。その時には、私は眼鏡をはずしていたのだ。船は客がこんでいた。私は、親爺と二人で、荒蓆で荷造りをした、その荷物の上に腰かけていた・・・ 黒島伝治 「入営前後」
・・・ 小豆島の村にも八十八ヵ所のお札所があり、そこの第一番のお札所を建て直すとき、やっぱりこういう風に、屋根瓦一枚十銭、銅板一円と勧進したそうである。お金を出したひとは、みんな自分の名が書かれている瓦や銅で、寺が建立されると素朴に信じている・・・ 宮本百合子 「上林からの手紙」
出典:青空文庫