・・・めに、非常に虐待したものから、細君は常に夫の無情を恨んで、口惜い口惜いといって遂に死んだ、その細君が、何時も不断着に鼠地の縞物のお召縮緬の衣服を着て紫繻子の帯を〆めていたと云うことを聞込んだから、私も尚更、いやな気が起って早々に転居してしま・・・ 小山内薫 「女の膝」
・・・反省が入れば入る程尚更その窮屈がオークワードになります。ある日こんなことがありました。やはり私の前に坐っていた婦人の服装が、私の嫌悪を誘い出しました。私は憎みました。致命的にやっつけてやりたい気がしました。そして効果的に恥を与え得る言葉を捜・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・施与ということは妙なもので、施された人も幸福ではあろうが、施した当人の方は尚更心嬉しい。自分は饑えた人を捉えて、説法を聞かせたとも気付かなかった。十銭呉れてやった上に、助言もしてやった。まあ、二つ恵んでやった。と考えて、自分のしたことを二倍・・・ 島崎藤村 「朝飯」
・・・二人死んだら尚更いい。ああ、あの子は殺される。私の、可愛い不思議な生きもの。私はおまえを、女房の千倍も愛している。たのむ、女房を殺せ! あいつは邪魔だ! 賢夫人だ。賢夫人のままで死なせてやれ。ああ、もうどうでもいい。私の知ったことか。せいぜ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・知っているからこそ、尚更あの人は私を意地悪く軽蔑するのだ。あの人は傲慢だ。私から大きに世話を受けているので、それがご自身に口惜しいのだ。あの人は、阿呆なくらいに自惚れ屋だ。私などから世話を受けている、ということを、何かご自身の、ひどい引目で・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・ 今のこの時局に於ては尚更、大いに読まなければいけない。おおらかな、強い意志と、努めて明るい高い希望を持ち続ける為にも、諸君は今こそシルレルを思い出し、これを愛読するがよい。シルレルの詩に、「地球の分配」という面白い一篇がありますが、そ・・・ 太宰治 「心の王者」
・・・それでもだまって居るのは尚更苦しくて日の暮しようがないので、きょうは少ししゃべって見ようと思いついた。例の秩序なしであるから、そのつもりで読んで貰いたい。○僕も昔は少し気取て居った方で、今のように意気地なしではなかった。一口にいうとやや・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・ ところがもっと近くによりますと、尚更わからなくなりました。三疋とも口が大きくて、うすぐろくて、眼の出た工合も実によく似ているのです。これはいよいよどうも困ってしまいました。ところが、そのうちに、一番右はじに居たカン蛙がパクッと口をあけ・・・ 宮沢賢治 「蛙のゴム靴」
・・・ラクシャンの第一子は尚更怒って立派な金粉のどなりをまるで火のようにあげた。「知ってるよ。ヒームカはカンランガンさ。火から生れたさ。それはいいよ。けれどもそんなら、一体いつ、おれたちのようにめざましい噴火をやったんだ。あい・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・ 女は尚更で、例えば、姙娠しているものは五ヵ月以上は解雇してはいかぬ。それから乳飲児をもって一年以内のものは最後まで解雇しない。また年寄には養老保険がある。五十五か六十で養老保険を付けて、そして職業を離れてもよいことになっている。特に合・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
出典:青空文庫