・・・選ばないとすれば――下人の考えは、何度も同じ道を低徊した揚句に、やっとこの局所へ逢着した。しかしこの「すれば」は、いつまでたっても、結局「すれば」であった。下人は、手段を選ばないという事を肯定しながらも、この「すれば」のかたをつけるために、・・・ 芥川竜之介 「羅生門」
・・・で、スタンダールは一人の人間は事件の局所しか目撃出来ないという現象にとらわれて、そこに文学の写実の意味をおく一種の間違いをおかした通り、ナポレオンについても彼が帝位につくに至った勢いについての評価は決して紙背に徹してはいません。 掛蒲団・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・って、その作品、その作家ばかりを細かくつっつきまわして、その作品、その作家が民主主義文学の全体の中で、どういう意味と価値をもった存在であるかということを読者に理解させてゆくことができなければ、やっぱり局所的であり、個人主義的な観念にしばられ・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
出典:青空文庫