・・・として、先輩教員らのへつらい屈伏を目撃し二宮金次郎の話をして児童から「私は金次郎は感心ですけれど万兵衛はわるいと思います」といわれたことを契機に、猛然と自分のかけられてきた師範学校的世界観の魔睡を批判しはじめる。佐田の煩悶がかくして始る。佐・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 菊池寛は、歴史的題材をあつかったあらゆるテーマ小説で、封建的な勇壮の観念、悲愴の伝統、絶対性への屈服、恩と云い讐というものの実体等に対して、真正面からの追究を試みている。菊池寛は文学的出発において、バアナード・ショウの影響を蒙って一種・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ゲーテが現実生活に処して行ったようなやりかたを鴎外は或る意味での屈伏であるとは見ず、その態度にならうことは、いつしか日本の鴎外にとっては非人間的な事情に対してなすべき格闘の放棄となっていたことをも、鴎外自身は自覚しなかったであろう。 杏・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・作家がより高い達成のために謙そんであるということは、本質をゆがめた評価に屈伏することではない。〔一九四九年三月〕 宮本百合子 「河上氏に答える」
・・・十七歳の彼女の心の中の考えはまだはっきりした形をとってこそいなかったが、人間の発達を阻むようないろいろの条件には決して屈伏しないで、一人でも多くの人々が充分の文化の光に浴さねばならないこと、そうして社会進歩はもたらされなければならないという・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・そして、低く低くと身をかがめたのであったが、このひどい屈伏が、一九三〇年以後におこったところに、今日の文化にとって重大な問題がひそんでいる。山の彼方の空を眺め、山の頂をはるかに通じる一筋の道を眺めたものにとって、窓をしめ、地球の円さは村境で・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・戦争はいやですわねえ、といいつつ、そのいやなものが強制されればやむを得ないと、屈伏する前提ででもあるかのように、ひそひそと私語がかわされていた。したがって、社会の心理に及ぼす効果をしらべると、戦争なんて、いやですわねえ、とあっちできこえこち・・・ 宮本百合子 「今年のことば」
・・・アランの散文と詩の区別のようなところにひっかかっているものだから、現代の散文精神の屈伏があり、美が喪われている。〔一九四〇年二月〕 宮本百合子 「作品のよろこび」
・・・には又、自然主義が日本とフランスではちがった花を咲かせたと同じような日本の独特な社会の事情があったわけであるが、とにかく、数年を経て再び作家と教養の課題が立ちあらわれた時には、この教養の実質が過去への屈伏を意味したとともに、その必要を云々す・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・ののれんが物をいう反民主性に屈伏することであるのに、おどろかずにはいられまいと思う。「同人雑誌」でさえあればそれが新しい文学の温床なのではなくて、旧来の文壇気質やジャーナリズムの現代文学の空虚さにあきたりない何かのつよい生活的文学的欲求・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
出典:青空文庫