・・・『平凡』の中の犬の一節は二葉亭の作中屈指の評判物であるが、あれは仲猿楽町時代の飼犬の実話を書いたものである。あの行衛知れずになった犬というはポインターとブルテリヤの醜い処を搗交ぜたような下等雑種であって、『平凡』にある通りに誰の目にも余・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・昨日のやさしき王は、一朝にしてロオマ史屈指の暴君たるの栄誉を担った。かつて叡智に輝やける眉間には、短剣で切り込まれたような無慙に深い立皺がきざまれ、細く小さい二つの眼には狐疑の焔が青く燃え、侍女たちのそよ風ほどの失笑にも、将卒たちの高すぎる・・・ 太宰治 「古典風」
・・・するとベルリン大学に居る屈指の諸大家は、一方アインシュタインをなだめると同時に、連名で新聞へ弁明書を出し、彼に対する攻撃の不当な事を正し、彼の科学的貢献の偉大な事を保証した。またアインシュタインは進まなかったらしいのを、すすめて自身の弁明書・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ドンバス炭坑区を近くに持ち、大国営農場、機械工場をもち五ヵ年計画とともにソヴェト同盟の南方地域では屈指の重工業、農業の生産中心地となった。 ハリコフ市を中心とするウクライナはソヴェト同盟のプロレタリア文学とも縁が深い。ショーロホフの「静・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・国土の面積に比べて日本は鉄道網の発達していることと、小学校のどっさりあることでは世界屈指であった。八年制によって、その質が高められようとするのだろう。 事変以来、様々の勤労の場面に小学校の卒業生の求められている勢は殆どすさまじいばかりで・・・ 宮本百合子 「国民学校への過程」
・・・三井高雄氏のような東洋屈指の大財閥の一族ならば、妻をつれ、娘をつれ、何処へ行くのも当然だろうが、片山哲の一行がコーへ行ったばかりか、ドイツ、イギリス、フランス、アメリカと巡遊して、帰ってきた菊江夫人から「あちらでは家事が機械化されていて、便・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
・・・ 日本は、知られているとおり出版物の数の多いこと、種類の夥しいことでは、世界でも屈指であった。夥しい良書悪書の氾濫にもかかわらず、女性の著作のしめている場所は、狭く小さく消極的で、波間にやっと頭を出している地味の貧しい小島を思わせる。や・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
・・・けれども、英国に於る社会表面上の道徳は世界屈指のものだと云う信念を捨てた人は実にまれだ。ところが、実際、若しする気があれば人は、まことに雑作なく、英国の社会生活は他の国々のそれよりちっとも純潔でないと云うことを証明することが出来る。最早絶え・・・ 宮本百合子 「無題(四)」
・・・もう余程前から、この土地で屈指の姉えさん株になっている。 私には芸者に識合があろう筈がない。それにどうして鼠頭魚を知っているかと云うと、それには因縁がある。私の大学にいた頃から心安くした男で、今は某会社の頭取になっているのが、この女の檀・・・ 森鴎外 「余興」
出典:青空文庫