・・・角顋は、ポケットから朝日を一本出して、口へくわえながら、「こう云うものが出来ると、羊頭を掲げて狗肉を売るような作家や画家は、屏息せざるを得なくなります。何しろ、価値の大小が、明白に数字で現れるのですからな。殊にゾイリア国民が、早速これを税関・・・ 芥川竜之介 「MENSURA ZOILI」
・・・ 肉体に勇気が満ちてくれば、前途を考える悲観の観念もいつしか屏息して、愉快に奮闘ができるのは妙である。八人の児女があるという痛切な観念が、常に肉体を興奮せしめ、その苦痛を忘れしめるのか。 あるいは鎌倉武士以来の関東武士の蛮性が、今な・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・の建白をし、維新以来二十年間沈黙した海舟伯までが恭謹なる候文の意見書を提出したので、国論忽ち一時に沸騰して日本の危機を絶叫し、舞踏会の才子佳人はあたかも阪東武者に襲われた平家の公達上のように影を潜めて屏息した。さすがに剛情我慢の井上雷侯も国・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・構わない、荘厳を構わないまではよいが、一歩を超えて真のために美を傷つける、善をそこなう、荘厳を踏み潰すとなっては、真派の人はそれで万歳をあげる気かも知れぬが美党、善党、荘厳党は指を啣えて、ごもっともと屏息している訳には行くまいと思います。目・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
出典:青空文庫