・・・私たちはそういう歴史の展望をも空想ではない未来の絵姿として自分の一つの生涯の彼方によろこびをもって見ているのも事実である。 未来の絵姿はそのように透明生気充満したものであるとしても、現在私たちの日常は実に女らしさの魑魅魍魎にとりまかれて・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・パッと展望が開いた。地平線まで密林が伐採されている。高圧線のヤグラが一定の間隔をおいてかなたへ。――いそいでもう一方を見たら、電線は鉄道線路を越えて、再びヒンデンブルグの前髪のような黒い密林のかなたへ遠くツグミの群がとび立った。今シベリアを・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・一人の人間が歴史に目ざめるということ、歴史の現実そのものが一人の人間を社会主義への展望に成長させてゆく過程はヒューマニティそのものの問題である。思想検事が「ここにおいて被告はマルクス主義思想を抱懐するにいたり」と法廷でよみあげる告発の文書の・・・ 宮本百合子 「あとがき(『二つの庭』)」
・・・は総括的にこの時期を展望している。プロレタリア文学運動の組織とその作家たちのうけた被害の姿を眺めて、居直ったブルジョア文学とその作家が、横光利一の「紋章」をかざして、一方に擡頭しつつあるファッシズムとその文学の警戒すべき本質をさとらずに、右・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・ 本当の知的生活が多くのアメリカ人の日常生活から失われているということについては展望十一月号座談会の「アメリカ文化と日本」の中で、都留重人氏がこまかく具体的に語っておられます。都留氏の話は非常に参考になる。キャナライゼーションということ・・・ 宮本百合子 「アメリカ文化の問題」
・・・、日本の民主化にいろいろの変調が加えられて、たとえば用紙割当委員会の権限が、ずるずると内閣に属す委員会に移され、文化材の合理的割当を口実に、官僚統制、赤本屋委員会に堕してしまうころから、吉田茂の明るい展望が記者団との会見で語られるようになっ・・・ 宮本百合子 「「委員会」のうつりかわり」
・・・この音楽と、いつか展望にのった高村光太郎の「ブランデンブルグ」とを思い比べずにはいられません。何というちがいでしょう。ここにわれらの鳴りひびく打楽器があります。あすこには、雪のきらめく山嶺とそこに孤独であってはじめて確保された唯心的で超歴史・・・ 宮本百合子 「鉛筆の詩人へ」
・・・進行中の長篇は起伏を通じて労働者階級の歴史的使命の展望にたって書かれている。どんなに見かけのいい形容詞に飾られようと、小市民作家として完成するために私は党の列伍に加ったのではない。 投書に答えたことばじりをとらえて、私が文化反動との闘争・・・ 宮本百合子 「河上氏に答える」
・・・『くにのあゆみ』が日本の歴史学的な根拠もとぼしい皇紀をやめて、西暦に統一して書かれたことは、この将来の展望の上からも妥当である。〔一九四六年十月〕 宮本百合子 「『くにのあゆみ』について」
・・・ だが、そもそも私たち人間がギリシアの時代からもちつたえ展開させ、神話よりついに科学として確立させたこの社会についての学問、社会科学とその究明よりもたらされる将来の構成への展望とは、人間情熱のどういう面とかかわりあったことなのであろうか・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
出典:青空文庫