もし、その作家が、真実であるならば、どんな小さなものでも、また、どんな力ないものでも、これを無視しようとは思わないでありましょう。 個人は、集団に属するのが本当だというようなことから、なんでも、集団的に、階級的に見ようとするのは、・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・「僕は何方へ属するのだろう!」と松木は笑いながら問うた。「無論、平気な人に属します、ここに居る七人は皆な平気の平三の種類に属します。イヤ世界十幾億万人の中、平気な人でないものが幾人ありましょうか、詩人、哲学者、科学者、宗教家、学者で・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ということは素質に属する。天才は常人よりももっと深く、高く、鋭く問い得る人間である。常人が問わずしてみすごすことを天才は問い得るのである、林檎はなぜ地に落ちるか? これはかつてニュートンが問うまで常人のものではなかった。姦淫したる女を石にて・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・個人的な権限に属することでも、命じられた以上は、他を曲げて実行しなければならないのが兵卒だった。それが兵卒のつとめだ。彼は俸給に受取った五円札をその貯金を出した。そして、ツリに、一円札を四枚、金をまとめて野戦郵便局へ持って行く小使から受取っ・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・ 一等兵、和田の属する中隊は、二週間前、四平街を出発した。四線で南に着き、それからなお二百キロ北方に進んだ。 兵士達は、執拗な虱の繁殖になやまされだした。「ロシヤが馬占山の尻押しをしとるというのは本当かな?」もう二十日も風呂に這・・・ 黒島伝治 「チチハルまで」
・・・母と子とに等分に属するなどは不可能な事である。今夜から私は、母を裏切って、この子の仲間になろう。たとい母から、いやな顔をされたってかまわない。こいを、しちゃったんだから。「いつ、こっちへ来たの?」と私はきく。「十月、去年の。」「・・・ 太宰治 「メリイクリスマス」
・・・これだけから見ても西洋の糸車と日本の糸車とが全くちがった詩の世界に属するものだということがわかると思う。 この糸車の追憶につながっている子供のころの田園生活の思い出はほんとうに糸車の紡ぎ出す糸のごとく尽くるところを知らない。そうして、こ・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・そういう意味においてすべての種類の映画の制作はやはり広義における映画芸術の領域に属するものと思われるから、ここではそういう便宜上の種別を無視して概括的に考えることにする。 映画は芸術と科学との結婚によって生まれた麒麟児である。それで映画・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・子供が将来何者になるかは未知の事に属する。これを憂慮すれば子供はつくらぬに若くはない。 わたくしは既に中年のころから子供のない事を一生涯の幸福と信じていたが、老後に及んでますますこの感を深くしつつある。これは戯語でもなく諷刺でもない。窃・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・吾々が毎日やる散歩という贅沢も要するにこの活力消耗の部類に属する積極的な命の取扱方の一部分なのであります。がこの道楽気の増長した時に幸に行って来いという命令が下ればちょうど好いが、まあたいていはそう旨くは行かない。云いつかった時は多く歩きた・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
出典:青空文庫