・・・警視庁特高係山口、明大生の頭を割る。山口が太いステッキを振って椅子の上から荒れ狂い、何にもしない明大生を、わきにいたばっかりに殴りつけ昏倒させたという記事が出ている。大衆の圧力と、彼等の狼狽が、新聞の大きい活字と活字の間から湧きたって感じら・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・[自注2]叔父上――顕治の父の実弟、山口県熊毛郡光井村にすんでいた。幼時から顕治を非常に愛し、小学校へはこの叔父の家から通った。[自注3]林町――本郷区駒込林町二一 百合子の実家。[自注4]父――百合子の実父、中條精一郎。一八六・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 数年前、弟が出征したとき、母は、武運長久の願をかけに、山口からわざわざ琴平詣りをした。五月雨のころであった。父にあたる人は七年来の中風で衰弱が目立っていたから、母の琴平詣りも、ほんとうの願がけ一心で、住んでいる町の駅を出たのは夜中のこ・・・ 宮本百合子 「琴平」
・・・と、七、八月『時論』にのった山口一太郎元大尉の二・二六事件の真相「嵐はかくして起きた」「嵐のあとさき」をよみくらべた人はそこに不可解な一つの重複というか、複写版というか問題があることに気づかずにいられなかっただろう。山口一太郎氏の二篇の実録・・・ 宮本百合子 「作家は戦争挑発とたたかう」
・・・十二月、宮本と松江市、米子市、大阪、山口市等の講演旅行に行った。十二月に新しい日本の民主的文学へのよびかけとして「歌声よおこれ」を新日本文学創刊号のために書いた。近代文学のために「よもの眺め」を書いた。主としてジュール・ロマンの「ヨ・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ても、三合配給、お菜をたっぷり、牛乳を子供へ、などと語られているが、現在の配給機構へ実際婦人が入って改善してゆくためには、婦人の公民権が認められなければならないと主張している婦人代議士は一人もいない。山口シヅエという婦人代議士は、公約を果す・・・ 宮本百合子 「春遠し」
帝劇で復活を観た。一九三〇年にモスクワ芸術座で上演された方法で演出された。 つよく印象にのこったこと。 カチューシャに扮した山口淑子は熱演している。各場面ごとに、その場面の範囲内で。このことは、女優としての山口淑子・・・ 宮本百合子 「復活」
・・・ところが十一月には、あがった丸公につれてヤミまであがって、ヤミ買を拒絶した山口判事の死がつたえられた。勤労者のための、経済白書という言葉は、きょうのわたしたち人民の神経へは、つよく響いた。勤労者に白書を出して、青書や黒書はどういうひとたちに・・・ 宮本百合子 「ほうき一本」
・・・私がよそから何心なく家へ帰って来たら、警視庁特高の山口がはり込んでいて、任意出頭の形式で所轄署へ来いということです。所轄署駒込署へ行くと、中川というこれも文化団体弾圧専門の特高が待ちかまえていて、日本プロレタリア文化連盟のことで私を調べなけ・・・ 宮本百合子 「ますます確りやりましょう」
・・・小説においては、済勝の足ならしに短篇数十を作り試みたが、長篇の山口にたどりついて挫折した。戯曲においては、同じ足ならしの一幕物若干が成ったのみで、三幕以上の作はいたずらに見放くる山たるにとどまった。哲学においては医者であったために自然科学の・・・ 森鴎外 「なかじきり」
出典:青空文庫