・・・やっと、人心地がついた所で頭の上の扁額を見ると、それには、山神廟と云う三字があった。 入口の石段を、二三級上ると、扉が開いているので、中が見える。中は思ったよりも、まだ狭い。正面には、一尊の金甲山神が、蜘蛛の巣にとざされながら、ぼんやり・・・ 芥川竜之介 「仙人」
・・・ かつて、山神の社に奉行した時、丑の時参詣を谷へ蹴込んだり、と告った、大権威の摂理太夫は、これから発狂した。 ――既に、廓の芸妓三人が、あるまじき、その夜、その怪しき仮装をして内証で練った、というのが、尋常ごとではない。 十日を・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・が、いずれも葉を振るって、素裸の山神のごとき装いだったことは言うまでもない。 午後三時ごろであったろう。枝に梢に、雪の咲くのを、炬燵で斜違いに、くの字になって――いい婦だとお目に掛けたい。 肱掛窓を覗くと、池の向うの椿の下に料理番が・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・聖徳太子が四十三歳の時に信貴山で洞簫を吹いていたら、山神が感に堪えなくなって出現して舞うた、その姿によってこの舞を作って伶人に舞わしめたとある。 始めに、たぶん聖徳太子を代表しているらしい衣冠の人が出て来て、舞台の横に立って笛を吹く。し・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
出典:青空文庫