・・・ 藤村の歿後、何かの新聞に島崎鶏二氏の書いた文章を見かけた。そして生涯精励であるいかなる作家も、最後には、自分で書ききれない一篇の小説を、自分の人生の真髄に応じて後に生きつづけてゆく者の間へ遺すものだということにこころうたれた。・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・日本には島崎藤村という現存の老大家を主人公とした伝記小説さえ出現している。一方、文学は質において果して今日豊饒であろうか。インフレ文学という苦笑が漲って、量が質とは相反するものとして観察されているのは如何なる理由からであろうか。 あらゆ・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・『文芸』十月号に島崎蓊助が「父上様」という感想を書いている。あの一文を若いジェネレーションは何と読んだであろうか。「夜明け前」が一つの記念碑的な作品であることに異議ない。七年間の労作に堪ゆる人間が、枯淡であろうとも思わないし、無・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・今日私たちの目の前にある近代古典と云うべき作品の多くはこれらの時期に書かれたものであるし、古典的な権威として今日或る意味で価値ある文学上の存在をつづけている作家たち、例えば島崎藤村、徳田秋声、谷崎潤一郎、永井荷風、志賀直哉、武者小路実篤等は・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・例えば、島崎藤村、徳田秋声等は、日本の資本主義が勃興の途についたロマンチシズムの時代から、自然主義の時代、白樺等によって唱えられた人道主義の時代、更に社会の推進につれて生じた新たな階級の文学運動の開始等、明治から昭和に至る日本文化の縦走をそ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・再評価の機運があることや、不安の呼び声の裡に方向を失っている若手のスランプが刺戟となったりして、自然主義以来の老作家たちが、それぞれ手練の作品をひっさげ、数年の沈黙を破って再び出場して来たことである。島崎藤村は明治文学の記念碑的な作品「夜明・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・社会欄にさしはさまれて、今日などは島崎藤村が昔ながら住う飯倉の街を漫歩して、魚やの××君などと撮した写真をのせている。それぞれに写真にも工夫があって面白く見るのであるが、数日前、女である私の眼に映って心にまで或る痛みをもって焼きついた東京ハ・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・そして、同時代人の島崎藤村氏が、こんにち「夜明け前」を完成し、国際ペンクラブ東京招致に成功したりしているのは、その実際の生き方において透谷とは対蹠的な方法を選んだ計画性のためであることも、また、私どもにつたえられている日本文学の財産の性質を・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・ 興味あることには、この時代の旺な脈動が、例えば上司小剣、島崎藤村、或は山本有三、広津和郎等に案外の反映を見出していることである。 明治文学の記念塔である藤村の「夜明け前」が執筆され始めたのは昭和四年、新しい文学の波の最高潮に達した・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・を『中央公論』に連載中の島崎藤村はもちろん、永井荷風、徳田秋声、近松秋江、上司小剣、宮地嘉六などの諸氏が、ジャーナリズムの上に返り咲いたことである。 このことは、ブルジョア文学の動きの上に微妙な影響を与えたばかりでなく「ナルプ」解散後の・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
出典:青空文庫