・・・『文学界』六月号所載川上喜久子氏の「郷愁」という作品などは、文学の大衆化が誤って理解された芸術的実践の一つの不幸な標本を示していると思われる。 ひとくちに、大衆と云っても、その規定のしかたはいくつかあると思う。少くとも、大衆が低い文化を・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・を川上音二郎一座が演ずるのを見物した。五つ位の娘であった私の茫漠とした記憶の裡に、暗くて睡い棧敷の桝からハッと目をさまして眺めた明るい舞台に、貞奴のオフェリアが白衣に裾まである桃色リボンの帯をして、髪を肩の上にみだし、花束を抱いて立っていた・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・のような題材のもの、川上喜久子氏の朝鮮を背景とした作品など出ている。そのほか多くの婦人作家たちが、満州、支那、南洋へと見学にも出かけている。 十年前なら、秋の奈良へ行って博物館や法隆寺を見ていた婦人作家たちが、今日は満州だの蘭印だのへ出・・・ 宮本百合子 「拡がる視野」
・・・岡本かの子氏、小山いと子氏、川上喜久子氏、いずれもそれぞれ生活にゆとりのある中年の夫人たちである。社会的に文学者の生活が困窮への道を辿り、そのことではとりも直さず日本のインテリゲンツィアの一般的な窮乏、勤労者化が語られている今日、原稿料など・・・ 宮本百合子 「婦人作家の今日」
・・・同一座の作者となったが、二月目に意見の衝突をして飛び出し、その暮、秋月、川上、喜多村一座の作者となり、舞台監督をやる。 一九一六年。幕内の生活に堪えられず、これも三月目に逃げ出す。しみじみ自分の無力をおもう。精進の気遽に高まり、岡本市太・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・あすの川開きに、両国を跡に見て、川上へ上って、寺島で百物語の催しをしようと云うのだが、行って見ぬかと云う。主人は誰だ。案内もないに、行っても好いのかと、僕は問うた。「なに。例の飾磨屋さんが催すのです。だいぶ大勢の積りだし、不参の人もありそう・・・ 森鴎外 「百物語」
出典:青空文庫