・・・始めの間帳場はなだめつすかしつして幾らかでも納めさせようとしたが、如何しても応じないので、財産を差押えると威脅した。仁右衛門は平気だった。押えようといって何を押えようぞ、小屋の代金もまだ事務所に納めてはなかった。彼れはそれを知りぬいていた。・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ついすると、小作料を差押えるにもそれが無いかも知れない小作人とは、彼は類を異にしていた。けれども、一家が揃って慾ばりで、宇一はなお金を溜るために健二などゝ一緒に去年まで町へ醤油屋稼ぎに行っていた。 村の小作人達は、百姓だけでは生計が立た・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・ それなら仕方がない、土地を差押えるぞ! これが海老屋の年寄りの奥の手であった。 最初からこうまでするように、彼女の妙法様はお指図下すったのである。 現在海老屋の所有となっている広大な土地は、全部こういう風な詭計を用いて奪ったの・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫